Catch yours !!! 【西山宏太朗】

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最初はこの時間、あくまで自宅のすぐそこだとしても女性が外にいるのは危ないからと説得するつもりだった。それでもこちらの話を冷静に聞けなくなっているくらい感情の整理ができていない彼女を見て、僕のお節介スイッチが押されてしまった。


何度何を問いかけても一向に家に入ろうとしない、かといってどうしようもできない状況にため息をつきながら、最終手段に出た。一宮さんに「ちょっと失礼しますね」と声をかけて、後ろから抱っこした彼女は酷く軽くて、驚いて口をパクパクしている本人はさて置き「ちゃんと食べてます？」と問いかけた。


「ちょ、え、お、おろして！」

「はい、足元気を付けて」


一宮さんがようやく状況を掴み始めて、おろしてと言い始めた時にはもう僕の家の中。ソファーの上に下ろすと、くたっと背もたれにもたれながら「何するんですか！」と警戒しながら言った。


「強行突破ですよ」

「強行がすぎます……」


それでもそこまで威勢を維持できないくらいの一宮さんは、俯いてからまた「すみませんね」といつもの様に謝った。声はか細くて、ぽきっと折れちゃいそうだった。

レンジで冷凍しておいたご飯を温めながら、ついでにココアも作る。「こういう時は大体ドラマでも小説でも、ココアですよね」と言いながら差し出すと、おずおずと受け取ってくれた。「夏ですよ」という小さな呟きが聞こえて吹き出した。


一宮さんは僕の家に来てからは涙を止めて、いくばくか落ち着いているようだった。それは僕という人間の前だからかもしれない。一宮さんのなけなしの理性が働いて、遠慮しているのかもなとも思う。
フラフラしながら机に座って、「いただきます」と小さな声で言った彼女は、白米を一口、ハンバーグを一口、サラダを一口と食していく度に、ポタポタと礫を流していった。

嗚咽をしながら飲み込むご飯は大変そうで、時たま水を進めてやらないといけないようだった。ある時彼女は「味がしないです」と言い、また涙を流した。思わず笑みが溢れて、「想像してみてください」と笑いかけた。


「つらいです」

「はい」

「もうがんばれません」

「はい」


ドライヤーで一宮さんの髪を乾かしてあげている時、小さな声で呟くのが聞こえた。何をいうわけでもなく、ただ一線引いて相槌だけ返した僕の対応が正しかったのかもわからないけど、なんだか「頑張りましょう」と一方的に押し付けるのだけは絶対に違うと思った。



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