サプライズな出会い ページ2
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その隣人の名は一宮さんといった。
日頃生活音を全く鳴らさず(というより多分夜遅くまで帰ってきてない)、夜遅くに外の廊下でヒールの音が響くと、一宮さんが帰ってきたんだなぁと他人事ながらに思っていた。
そして決まってベランダで、「あー、課長死なないかなぁ」とか「孤独死は避けたいなぁ」とか、怖すぎる願望と鬱憤を思い思いに夜空に向かって呟いていた。モラルとは。
特に怖かったのは、ビリビリと、紙が破ける音がした日である。半笑いの声で「会社が倒産」「残業」「会社が倒産」「残業」とまるで花占いのように、紙を破いていた日には流石に恐怖でベランダに立ち尽くした。
ちなみに「あはっ、残業だぁ〜」という狂った声が聞こえた時は思わず110番をしそうになった。
半笑いというのと、破くのが紙ということ、そして何より会社が倒産するか自身の残業かをかけているという三点が主に怖かった。……よもや、全部だ。
それでも僕の中で一宮さんという人は、悪い人ではないと思っていた。何故なら、彼女は散々上司の愚痴を言い、社会の愚痴を言い、やけくそとも取れる自分の願望を呟いた後、決まって最後の最後で「でもまぁ、がんばるか」と明るい声で言ってベランダから去っていくからだ。
その呟きは、社会に揉まれる社会人の、明日を生きる決意表明のような物に聞こえて、どうもかっこいいと思ってしまう。
一宮さんは一人で嫌なことをぶちまけるのがストレス発散なのかな、と思いながら毎度盗み聞きをしていた。お陰で上司の名前を三人ほど覚えてしまった。
そして今日もきっと、一宮さんはベランダに来るはずだと踏んで、お酒を持ってベランダに出た。さっきヒールの音が聞こえたから、一宮さんが今週初のご帰宅だ。ちなみに、もう今週は金曜日に差し掛かったところである。
そんなこんなで夜空を見ながらぼうっとお酒を飲んでいると、インターホンが鳴った。
思わずお酒を床に置いて、扉をじっと見つめてしまった。
そう、おかしいのだ。
うちのマンションはセキュリティ上、一回のエントランスのインターホンを鳴らしてロックを解除してもらってからでないと、マンション自体に侵入できない。
大概ご近所さんである場合が多いけど、仕事の都合上ファンが押しかけたか?と若干の警戒心を持って、内鍵をしながらドアを開いた。
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まほろ(プロフ) - morさん» 気付くのが遅くなってしまいすみません…。沢山褒めていただいて、私もモチベーションが上がりました(笑)これからもどんどん西山さんと一宮さんが仲良くなっていくので、是非完結までお付き合いください! (2021年12月21日 7時) (レス) id: 0871b431d8 (このIDを非表示/違反報告)
mor(プロフ) - 文章を書くのが上手すぎます…!!あとラジオの相槌の感じ(あの、とかを入れるタイミングとか)が絶妙すぎてめちゃくちゃ感情移入できます!!こんなに面白い小説久しぶりに出会いました、これからも応援しております!! (2021年12月18日 1時) (レス) @page21 id: 06bc4acfa5 (このIDを非表示/違反報告)
まほろ(プロフ) - きゃらめるかも。さん» 素敵なコメントありがとうございます〜!これから長い長い物語になりますが、ぜひお付き合いくださいませ! (2021年12月15日 7時) (レス) @page9 id: 0871b431d8 (このIDを非表示/違反報告)
きゃらめるかも。 - めちゃめちゃ面白いです!!ゴキブリの話とか!笑、その発想はなかったのでビックリしました!これからも、お体に気をつけて頑張って下さい!😆 (2021年12月14日 14時) (レス) @page4 id: 242d71ebf1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まほろ | 作成日時:2021年12月14日 7時