イブニングドレスは似合わない【あんスタ/怪盗パロ】 (ページ4)

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月光とダンス/三話ページ4

とん、と降ろされても、私は立つことができなかった。座り込みそうになったところを先ほどまで私を抱きかかえていた彼が支える。咄嗟に謝ると、チェシャ猫のような笑みを浮かべて彼が言う。

「あんた、平々凡々な顔してるくせに、意外とおもしろいんだねえ。普通は誘拐犯に『ごめんなさい』なんて言わないと思うけど？」

　右手は私を支えたまま、左手の人差し指で頬をつつかれる。

「なんで俺がこんなことまでしなきゃいけないの、とか思ってたし今も思ってるけど、ちょっとおもしろかったから教えてあげる。俺は凛月。職業はねえ、ま～くんの扶養家族兼怪盗」

　凛月くんと名乗った彼からものすごい言葉が聞こえた気がするが、反応している余裕はなかった。怪盗というファンタジックな単語が脳をリフレインする。

「あの美術館でとあるイブニングドレスを奪う計画だった。もちろんミッションは成功したけど、その最後の肯定、つまり脱出の間際に見られちゃったんだよね。あんたに」

　口調は穏やかだ。それゆえに彼の言葉には落ち着かせる効果があった。一言一言がするりと体内に潜り込んでくる感覚がした。

「目撃者はあってはいけない……ってわけじゃない。俺たちの仕業だって知らせる必要があるからねえ。でも、今回の計画に目撃者(あんた)はいらなかった。いらないものは消さないと」

「凛月ちゃん、余計なことをべらべら喋らないの。まったく、いつもは必要なことすらやらないくせに」

　後ろから気配なく声がしたので思わず声をあげるところだった。実際に声にならなかったのは、凛月くんが口をふさいだからに過ぎない。

「って、あら！とってもかわいい子じゃない！」

「ちょ、ナッちゃん声デカいんだけど！セッちゃんに怒られるよ」

「怒られるのは凛月ちゃんよ。目撃者なんて出しちゃって……」

　夜の中だったので詳しくその人を観察することができない。目の前で繰り広げられる非日常な景色に瞬きをするのが精一杯だった。
　『ナッちゃん』と呼ばれた彼のすみれ色の瞳がこちらを見る。暗くともその宝石に似た輝きは褪せていなかった。

「まあ、それはそれ。まずは中に入りましょ。風邪引いちゃうもの。歓迎するわ、かわいい姫君ちゃん」