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『…それは、無理な話です。』
あぁまたかとAは落胆する。自分に魅了されてしまったただの哀れな子羊。その愛はまやかしでしかないことを彼女はよく知っているのであった。
「どうして、ですか。」
『此処に来る皆さんはよく同じことを言われます。しかしそれは…』
「俺は…！貴女からしてみれば確かにそこらの奴と同じかもしれません。」
『そこまで自覚ができているならばもう、立ち去りなさい。ここから速やかに。』
「いいえ、俺は貴女に聞きたいことがあるんです。」
「貴女は今、幸せですか？」
☼
チーノは諦めなかった。
勿論、信徒の来訪は自由であるから彼女がNOを出さない限り彼は彼女を訪れることができたのであった。しかし、来訪の度に振られてしまい彼の心は幾度となく削り落とされた。そんな彼の歩みを止めさせなかったのが彼女の眼であった。
チーノがはじめてAを見た時、その美しさに言葉を失った。しかし、その眼はどうも人間らしさを感じさせなかった。誰が彼女をこうしたのか。修練を積み、他の信徒との交流を深めていく内に彼は気が付いたのである。誰ひとりとして、あの女性を人間として取り扱っていないということに。
「Aさん、この服とかどうです？」
『わぁ……チーノさん、何度も言っているでしょう。受け取れないと。』
「ええやんか〜見てくれるだけでも。俺は気持ちだけでもAさんに受け取ってもらえたら嬉しいで？」
『それは…すみません。』
チーノは度々プレゼントと称して、彼女に似合いそうな服やアクセサリーを持っていくようになった。それを受け取ることができないと知っていながら、彼女の為に何かできることを模索していたのである。
「なんで謝るん？何でも、貰ったら嬉しいんやで。」
『私は、そうは思わないのです。』
「自分の嬉しいもんでも？」
『私が嬉しいと感じたその次の瞬間、その人は不幸になる。』
あぁそうかと彼は瞬時に悟った。彼女は見てきたのだ、堕ちたモノたちの末路を。暗い影を落としたその眼は幸せを固く閉ざしていた。それは、彼女なりの贖罪であった。
「俺、Aさんの事が好きだよ。今、こうしていられるだけで幸せやし。」
チーノは手を取ってその夕暮れを溶かしたような、美しい赤の瞳をじっと見つめた。彼の言葉に驚いたのか、彼女に影を落としていたモヤはぱっと何処かへ散ってしまった。きらきらと輝いているように感じた。
『私は………』
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メイナード(プロフ) - 天の河さん» 天の河様、コメント有難うございます。心中をはじめとした愛故の行動というものは、いつだってどう暴走するか予想の出来ないものですが、それが綺麗で、幸福であったならそれに越した事は無いと思います。閲覧有難うございました、どうか良き日をお過ごし下さい。 (2021年8月15日 19時) (
レス) id: f7c0eb2159 (このIDを非表示/違反報告)
天の河(プロフ) - 著名な方しか居ない合作ともあって、全てのお話が綺麗で、読んでいてとても楽しかったです。心中は個人的にとても大好きなので幸せです。grさんのお話と、馬鹿なshaさんのお話が特に好きです。もう大好きです。ありがとうございました。 (2021年8月15日 16時) (レス) id: cb69af0fdb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：企画参加者（午後） | 作成日時：2021年8月15日 12時
