【17:00】落日【ci】 ページ5
美しい赤だ。赤は世界の主役となり、眼を焼き付けるほどに輝いている。しかし、神はそこへ一滴のインクを零した。それはどんどんとにじむように広がり世界を包んでいく。また、それを鏡のように映した海は冥土へと繋がる扉のように来るものを歓迎しているようであった。
断崖絶壁のこの舞台へと二人の男女が足をかけた。舞台の終幕ならば二人は此処で愛を誓いあって拍手喝采の中でフィナーレを飾るにふさわしいだろう。だがこの舞台の観客は空白だ。残念なことに誰も彼らの行く末を見ることはないのである。
☼
「Aさん、言うてた通りめっちゃ綺麗やろ？」
Aと呼ばれた女はあまりの美しさに魅入られて一歩、また一歩とその混ざり合う赤の中へと進んでいく。高そうなスーツを着た男−チーノという名前である−は彼女を「危ないで」と言って寸でのところで引き留めた。
『これが、夕日なのですね。』
「せや、本物やで。写真なんか比べ物にならんやろ？」
『えぇ…何もかも見たことない物ばかりで。本当に、私の世界はどうしてこんなにも小さいのでしょうか。』
Aの目の端から一つ、二つと雫が落ちる。澄み切ったその雫に気が付いた男は気を利かせてポケットからハンカチーフを取り出しそっと掬った。雫はハンカチーフにじわりと溶けていきそこに滲みを作った。
「今日は楽しかった？」
『えぇ、とっても。』
「遊園地にショッピング、スイーツ巡りに…一日回るには詰め込み過ぎたかもしれんな〜」
『そうでしたか？私には足りないぐらいでしたよ。』
そういってくすくすとAは笑った。それにつられてチーノも顔を綻ばせる。そんな話をしていると彼女の雫は自然と止まり、役目を終えたハンカチーフをチーノは元のポケットへとしまい込んだ。
「せやな…まだまだ足りひんわ。」
『チーノさんは、今日は楽しかったですか？』
「うん、楽しかったわ。だってAさんが楽しそうにしてんのを見れたんやもん。」
『それは、何だか恥ずかしいような…』
「だって、神様がやっと人間に戻ってくれたんやで？」
何気なく呟かれた〈神様〉という言葉にAは顔を顰める。彼女にとって、それは不本意な言葉であった。Aは正真正銘の人間だ。皮膚を切りつければ赤い血が流れ、意思疎通のための言葉を用い、考える。ただ、彼女をそこらの人間と区別させるものが一つだけあった。
Aは、生きた神として信仰されている。
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メイナード(プロフ) - 天の河さん» 天の河様、コメント有難うございます。心中をはじめとした愛故の行動というものは、いつだってどう暴走するか予想の出来ないものですが、それが綺麗で、幸福であったならそれに越した事は無いと思います。閲覧有難うございました、どうか良き日をお過ごし下さい。 (2021年8月15日 19時) (
レス) id: f7c0eb2159 (このIDを非表示/違反報告)
天の河(プロフ) - 著名な方しか居ない合作ともあって、全てのお話が綺麗で、読んでいてとても楽しかったです。心中は個人的にとても大好きなので幸せです。grさんのお話と、馬鹿なshaさんのお話が特に好きです。もう大好きです。ありがとうございました。 (2021年8月15日 16時) (レス) id: cb69af0fdb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：企画参加者（午後） | 作成日時：2021年8月15日 12時
