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そして、鈍色に光る何かを私の左胸に、深く突き刺した。
へ、と口から零れ落ちた言葉は音とならずに、紅い鮮血となって肺の空気とともに吐き出される。
驚いて彼の顔を凝視するも、そこにあったのはさっきとまるで変わらない、私のだいすきな笑顔。
なんだかもう、なにも考えられなかった。なんとも思えなかった。
頭のなかがうつくんでいっぱいだった。
いたいとか、なんでとか、言うべき言葉はたくさんあったはずなのに、うわごとのように口からでたのは全く違うもので。
『…うつくん、と、いっしょがいい…っ』
「うん、大丈夫、僕もすぐ追うから。大丈夫。安心して？」
彼に向かって必死に腕をのばすと、ぎゅうと抱きしめられた。
そこから感じる鬱くんのちょっと低めの体温、ほんのり匂う煙草の香り。
そして彼は言葉通りに、私と同じ位置、心臓のある場所へと赤く染まった鈍色を刺した。彼は一瞬も顔を歪めることなく、幸せに満ちた表情のままに私を抱いて口付けを一つ落とす。
どうしてだろうか、さっき感じた幸せは少しだって冷めていなかった。
なんにも恐くなんてなかった。
むしろこれで、私は永遠に彼と居られるのだと思うと、身体の芯から端々まで幸福が滲みわたっていくような感覚がする。
”証”の感触は、左手の指にしっかりとある。
難しいことは考えなくていい。
ただ、彼に全てを委ねればいい。
生きていたかったなんて全く思わない。
だって、こうして幸せを感じられるのは完全に鬱くんのおかげで、感情とそれに付随する全てを教えてくれたのは鬱くんだ。
私が生きていた理由の全ては鬱くんで、私は彼と会うために生きていた。
…そうだ、なにをごちゃごちゃと考えていたのだろう。
私は今、幸せ。ただその一言に尽きるというのに。
ありがとうね、うつくん。
もうろくに舌が回らなくて口から漏れ出たのはほとんど空気だったけど、きっと彼なら分かってくれている。…と、嬉しい。
ゆっくり落ちていく瞼に、視界に、最期に映ったのは彼の青。
月明かりを受けて控えめに光る濃紺だけを見つめて、多幸感につつまれながら、私の意識は黒に塗りつぶされた。
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メイナード(プロフ) - 天の河さん» 天の河様、コメント有難うございます。心中をはじめとした愛故の行動というものは、いつだってどう暴走するか予想の出来ないものですが、それが綺麗で、幸福であったならそれに越した事は無いと思います。閲覧有難うございました、どうか良き日をお過ごし下さい。 (2021年8月15日 19時) (
レス) id: f7c0eb2159 (このIDを非表示/違反報告)
天の河(プロフ) - 著名な方しか居ない合作ともあって、全てのお話が綺麗で、読んでいてとても楽しかったです。心中は個人的にとても大好きなので幸せです。grさんのお話と、馬鹿なshaさんのお話が特に好きです。もう大好きです。ありがとうございました。 (2021年8月15日 16時) (レス) id: cb69af0fdb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：企画参加者（午後） | 作成日時：2021年8月15日 12時
