【降谷零】お兄ちゃんって呼ばないで【名探偵コナン】

Siblings：04 ページ5

「ゃッ…」



ねっとり彼の舌が私の歯列をなぞり

そのまま ちゅぷ、と
わざと卑猥な音を立てて聴覚を刺激してくる


じゅるりと舌を吸われたかと思うと
兄の唾液が喉奥に流し込まれた



「んむっ…」

「…いい子だ、A」



コクっと拙いながらに与えられたそれを全て飲み干せば、つぅ…と銀の糸が互いに伝う


彼はその様子を心底満足そうに眺め
ぺろりと私の口の端から溢れる液体を拭った



「はっ…はぁ、…」

「へばっちゃった？」



漸く解放された唇に「ぷはっ」と空気を吸い込んで
荒くなった息を整えようと大きく肩を上下させる


一旦離れるために兄の胸元を押せば
意図を察して背中をとんとん優しく叩いてくれた



…呼吸一つ乱れてないこの人が恨めしい




「大丈夫か？」



労わるように問い掛けられたけど
ちょっと待って、誰がこうさせたの


ジロリと軽く睨んでみせても
ダメだ全く効いてない



胡散臭い飄々とした笑顔であしらわれた







「気を付けて行けよ」

「…零にぃこそ」




「送ってやれなくて、すまない」だって


欲を宿した瞳は隠さないくせに
兄らしくも白々しい言葉だけは忘れないのか



「帰りも寄り道するんじゃないぞ」

「もう、小学生じゃないんだから…」

「誰かに話し掛けられてもまずは警戒する事」

「分かってる」

「相手が男の場合は無視していい」

「分かった分かった、零にぃ遅刻するよ！」



保護者なのか、兄なのか恋人なのか

兄妹なのに年が離れてるせいで
イマイチどれもピンとこない


しつこい兄の背中をグイグイ玄関まで押しやりながら
とうに出ている答えに気付かないフリをする



___私達は、きっとどれにも当てはまらない



一つ、また一つと秘密を重ねる度
私達の関係は深く、そしてより脆くなる



どうしてこんなことするの、なんて


いっそ言ってしまえば楽なのに
そうすれば全て壊れてしまうから





「いってらっしゃい、零お兄ちゃん」




貼り付けた笑顔の裏


互いの感情を知りつつも
そんなの分からないと白を切る



こんなの抱くべきじゃない



そうして心を殺し、今日を生きるんだ





＊＊＊




半ば押され気味に玄関を出た後
チラリと閉じられた扉を振り向いてみる



「…好きだ、A」



呟くように吐いた言葉は
彼女に届く事はない


否、聞かれてはいけない


分かっているのに抑えの利かぬこの感情を
人は何と呼ぶのだろう



見えない爆弾のリミットへ
カチ、と着実に近付く音がした

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