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「よく怖がらなかったな」
背後から投げかけられた言葉に、閉じかけの瞼を開く。ゆっくり寝返りを打つと、2人分の体温とともに凝縮された甘い空気が毛布の中から少しずつ漏れ出ていくのがわかった。夜明け前の肌寒さから逃げるようにして深く毛布に潜り直すと、カツキさんは余韻に浸る目つきで私の乱れた前髪に指を通した。優しい手つき。思わず頬が緩んでしまう。
「カツキさんだとわかっていて、怖がるわけないです」
「イノシシにゃビビって気絶したくせに」
目尻を和らげてそう言うと、彼は自分の片足を私の両足の間に捻じ込んで絡みついた。引き抜こうとすると、もう片方の足が拘束してくる。子犬同士の戯れのような触れ合いに笑いが込み上げた。私が抵抗を諦めると、張り合いがないと思ったのか、今度は私の頬をいじることにしたらしい。真顔でつついてくる仕草が無性におかしくて、私はそれを押し込むために口を開いた。
「見ず知らずの人に獣の死体を押し付けられるのとは訳が違うでしょう。あの時はまだ、カツキさんのことが怖かったし」
「今は？」
「今は……怖くはないですけど」
ふぅん、と口の端を歪めたカツキさん。そこにからかいの種子が芽生えようとしていることを感じ取った私は、話の方向を変えるべく舵を切った。
「もし私がまた悲鳴をあげたり気を失ったりしたら、どうするつもりだったんですか」
「さぁな」
今度は彼がはぐらかす番だった。彼がこんな風に話を濁すことは珍しいのではないか。あからさまに視線を逸らされたので、真意を探るようにその面差しを覗き込むと、彼はため息をついて言った。
「どうするつもりだったと思う」
頬に指を埋める動きを一瞬止めた彼の、それまで力の抜けていた眼差しから温度が下がっていくのを見て取り、私はハッと息を呑む。
「まさか」
「まさか？」
「焼き殺すつもりだった、とか」
「何をどうしたらンな凶暴な発想になんだよ」
場は陽気な空気に転じた。寝ながら肘で互いを小突きあい、足を絡ませて暖を取るのは心地よかった。身を捩るたび角度を変えて光を反射するカツキさんの耳飾りを見ていると、時間さえ彼の思うがままになる気がする。
心が無防備になった拍子に、溶け込むように言葉が滑り出た。――帰りたくない。カツキさんの瞼がぴくりと動く。口に出した途端脱力感が押し寄せ、私は目を閉じた。緩やかな波に包まれる感覚。届いた声は夢の囁きか、それとも。
「お前が望むんなら、何だって」
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えとり(プロフ) - 瑞樹さん» 書き込みからお褒めの言葉までありがとうございます……！ゆったりとした更新ですが、応援していただけてとても嬉しいです^^ (2022年10月26日 20時) (
レス) id: 3ae1089047 (このIDを非表示/違反報告)
瑞樹(プロフ) - 文才があり過ぎて本当に尊敬します……。丁寧な描写がとても素晴らしいです！ 応援しています！ (2022年10月25日 19時) (レス) id: 943a21922c (このIDを非表示/違反報告)
えとり(プロフ) - ぴょんきちまるさん» 素敵な書き込みありがとうございます、その言葉に、私の心も嬉しさで痺れました…！続きもお楽しみください^^ (2022年10月15日 20時) (レス) @page22 id: 3ae1089047 (このIDを非表示/違反報告)
ぴょんきちまる - とても素敵な作品！読んでいて、凄く痺れました！わくわくしました。こんなにも次の話が楽しみで仕方ない作品に出会えて幸せです。 (2022年10月15日 11時) (レス) id: 94182d8a2a (このIDを非表示/違反報告)
えとり(プロフ) - enhy7さん» 書き込みとても嬉しいです…！体が浮いて飛び去ってしまいそうな、幻想的で素敵な曲のご紹介もありがとうございます。物語を引き続きお楽しみいただければと思います。 (2022年10月7日 19時) (レス) id: 3ae1089047 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：えとり | 作成日時：2022年9月12日 10時
