触れられない ページ8
「はーっ今日も愚痴った愚痴った！安室さんありがとう！」
満足げに息をついたAは、財布をしまいながらそう言った。
毎回奢るよと言うのだけど、彼女はその度、「奢るお金があるなら未来の彼女にとっときな！…うわ、私かっこよくない？」とわけのわからないことを言って遠慮し、結局割り勘になる。
とはいえ毎回俺の方が確実に多く酒を飲むので多く支払ってはいるが。
「家はどっちだ？近いんだろう、送る」
「酔っ払いに送ってもらうほど落ちぶれてないんで」
「そんなこと言って、変な事件に巻き込まれたら大変だろ、俺たちの仕事が増える」
「…俺たちの仕事？私が事件に巻き込まれたら増えるようなことある？」
きょと、とこちらを見つめるAに、胸がぎゅっとなる。寒さのせいだろうか。
仕事って、もちろん警察だ、とそこまで言いそうになり口をつぐんだ。
そういえば、俺は彼女に嘘をついてるんだった。
名前のこともそうだし、仕事のことも、何もかも、彼女は真実を知らない。
こんなにも純粋に『降谷零』と仲良くしてくれている彼女に、『安室透』などいないのだと、そう告げることも許されていない。
言いたい。本当の俺を知ってほしい。けど、言えない、言ってはいけない。
まだキョトンとしている彼女の腕を強引に引っ張って、家まで送りたい。けど、それができない。
『安室透』と言う嘘に塗りつぶされた俺では、彼女に触れられない。
先ほどまでよりも強く胸がぎゅっと締め付けられる感覚がして、少し息苦しさを感じた。
「…おーい。なんて顔してんの？」
「っ、あ、あ…いや、まぁ、お前を襲うような奴もいないか」
「ねぇ突然喧嘩売るのやめてくれない？」
「胸もないしな」
「よーしその喧嘩買った」
拳を握り、はーっと息を吐きかける彼女の姿に、自然と頬が緩んだ。
何笑ってんの！と怒った顔をするAをなだめて、結局家まで送ることもせず、その場で軽く手を振り別れた。
一人、酒で火照った体を向かい風で冷ましながらぼんやり歩く。
俺が、本当は俺ではないと言ったら彼女は怒るんだろうか。
この嘘つき、と俺を罵って、俺から離れて言ってしまうんだろうか。
…嫌われて、しまうのか。
「あれ？安室さんだー！」
「本当だ、こんばんは、安室さん」
その声、名前にハッとして、ニコリと笑ってみせる。
「こんばんは、コナンくん、蘭さん」
これでいい。これで、いいんだ。こうするしかないんだ。
俺は、公安警察なんだから。
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ねむ - 『触れられない』で安室さんが送らずにその場で別れたのが切ないけど大人な感じが解釈一致すぎます！！！夢主ちゃんも魅力があり、2人の掛け合いも好きです。 (2023年2月10日 1時) (
レス) @page8 id: 0b072b8240 (このIDを非表示/違反報告)
nao0824hito(プロフ) - 更新楽しみにしてるっす！ (2020年10月10日 19時) (レス) id: 04378a0bcb (このIDを非表示/違反報告)
ちゃみ(プロフ) - 初めまして、いつも楽しく読ませて頂いております。沖谷ではなく、沖矢ではないでしょうか？これからも楽しみにしております。 (2019年8月31日 13時) (レス) id: 507dd71bb9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：エリス | 作成日時：2019年8月16日 10時
