・ side s ページ6
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結局少し寝た事によって、酔いは割と冷めた訳だけれど
俺が飲んだことで解決されない問題が一つ。
「千賀さん飲まないと思って、私飲んじゃいました。」
「え?あ…」
店を出て、駐車場の前に足を運びながらAさんはため息を吐きながら言う。
毎度、こういう飲み会の時は
代わりに飲んでくれるAさんの代わりに俺が運転していたのだけれど。
今2人とも飲酒状態。
駐車場にはすぐ着いて、車を目の前にして何もできない2人。
「うわ、どうします?」
「代行電話してみます」
「すみません本当」
手を合わせて謝るとAさんは電話を掛ける。
コールが6回、7回鳴ったところで彼女は諦めてスマホを閉じた。
「金曜日だからなかなか繋がらないですね」
「タクシー乗ります?」
「先月経費で落としすぎて」
現在、恵比寿。
俺の家は近いから実費でタクシーで帰ってもいいけど、Aさんは割と遠い。
スマホでAさんはまた電話を掛ける。
今度はコールが2回ですぐに繋がった。
「あ、高嗣?ごめん寝てた?」
…代行じゃなくてそっちかい。
「お酒飲んだ?あ、そっか、迎えにきて欲しかったんだけど…ごめん。おやすみ。」
距離感の近い喋り方。
羨ましくて俺はどんな顔してAさんが喋ってるのかなんて見れなくて、足元に捨ててあるタバコの吸殻を意味もなく爪先で突く。
「千賀さんはタクシーで帰ってください」
「え、Aさんは?」
「私は、その辺のホテルかなんか探します。」
「…ウチ来ます?」
そう言うとAさんは目をまん丸に見開いた。
いやだって、実家だし。
やましい気持ちは断じてない。
1人にさせるのも元はと言えば俺がなんも考えずに飲んでしまったからで。
Aさんはというと困った顔をして悩んでいる。
「家族寝てますし。客間もあるんで」
「えー、いや、うーん」
「部屋着くらいなら貸せますよ。」
なかなかAさんは決断せず。
するとタクシーが「乗らないの?」と言わんばかりに俺らが立つ道の脇に失速して近づいた。
「Aさん」
名前を呼ぶと、諦めたように一緒にタクシーに乗り込むのだった。
深夜にタクシーに乗る男女。
行先はラブホテルじゃなくて俺の実家って言うのがキマらないよね、なんてぼんやり考える。
「すみません千賀さん」
「いや、俺も強引に誘っちゃって。
彼氏さん嫌がりません?大丈夫ですか?」
「あー、仕事には寛容なので」
そんなやりとりをニヤニヤして運転席のおじさんが見るのでこれ以上話すのはやめといた。
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作者名:soda | 作成日時:2020年6月12日 0時