9 side s ページ15
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最近、忙しい
新曲を出したからっていうのが大きくて、
雑誌の撮影。
バラエティ番組。
レギュラー番組。
ネット番組。
ああそうだ今日はラジオもある。
ありがたいことに2週間は1日まるまるの休みがない状態。
でも、心配なのはいつだって俺よりもAさん。
ガチャガチャと楽屋に響くタイピングの音がいつにも増して激しい。
「Aさん、これ、どうぞ」
さっき行ったコーヒースタンドでテイクアウトして来たラテを静かにパソコンの横に置く。
「り、領収書…」
そう、やっとパソコンから目線をようやく俺に向けた。
ゾンビのような顔をしていて、ビクッと体が強張る俺。
「いや、コレはついでに買ったので、ちょっと休憩して下さい。」
「ありがとうございます…」
今にも泣き出しそうになりながら、またパソコンに向かう情緒不安定な仕事ゾンビ。
毎回、新曲を録るよりも、それ以外のことがなかなか俺達もマネージャーも大変な訳で。
彼女の頑張る姿を見て、頑張らないと、と改めて思う。
そして愛おしいとも思ってしまう。
その目の下のクマも、いつもよりセットされてない髪も、昨日と同じ服だって、
全部すき。
「Aさん」
「ん?」
気が抜けた返事をする彼女。
「…この期間終わったら、めちゃくちゃ美味しいもの食べに行きません?」
彼氏でもない俺が、彼女のモチベーションになれるのなんてこのくらい。
でも、思いの外Aさんは目をキラキラさせて食いついて来てくれた。
「いきます、いきます!中途半端なの無しですよ?本当に高いやつ行きましょう」
「ふはっ、はい。行きましょっ!
Aさんが食べたい美味しいもの、お腹いっぱい。」
Aさんは久しぶりに笑顔を見せてくれて、
俺もすごく嬉しい。
「調べちゃおうかなー、休憩がてら」
なんて、ニヤニヤしてるAさん。
かわいい、と思ってしまい俺もニヤニヤしてしまう。
彼女の方に回って、俺も一緒にパソコンに向かって「とにかく高くて美味いもの」を検索、
…え?
「やっぱりお肉ですかね?それともお寿司かなあ」
鼻歌混じりで検索ワードにいろんな言葉を入れて想像を膨らますAさん。
いや、そんなことより。
見えてしまった、キスマイやテレビ番組関連ばかりの検索ワードの履歴がバッと出た中に
「彼氏 別れたい」
なんて、安直なワード。
すぐその履歴は美味しそうな食べ物の写真でページが変わってしまったけど、
俺の目には焼き付くように残ってる。
え、
Aさん、彼氏と別れたいの?
心臓が、ばくばくしてる。
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作者名:soda | 作成日時:2020年6月12日 0時