331. ページ38
.
(影山side)
視線を落とせば灰茶色の瞳がゆらゆらと揺れ動く。縋るような眼差しに、心臓を鷲掴みにされる。
＿＿＿Aがこうして露骨に大人しくなっているときは、だいたい何か悩んでいるときだ。これは今までの経験上の話だが、おそらく今回もその部類だろう。
再び辺りへ視線を走らせる。舞台裏なら誰も来ないだろうがこのタイミングで行ったら怪しまれそうだ。そうなるとやはり体育倉庫しかなさそうだな。あそこだって微妙だが、まだ幾分かマシか。
早々に判断してAの手首を掴むと、出来るだけ自然を装って体育倉庫へと連れ込んだ。部員達の視界に入らないよう奥まで歩み進めると、黙り込んだままのAを優しく腕の中に収める。
「またなんかあったのか」
『・・・ううん』
「じゃあなんでそんな落ち込んでんだよ。ずっと引っついてくんのも理由があんだろ」
『迷惑？』
「は、ちげぇよ。ただ様子が変だから、」
胸元で顔を埋める彼女がいまどんな顔をしているのか分からないが、いつもみたく弾んだ色をしていないのだけは確かだった。
弱々しく覇気のない声に動揺して、気の利いたことひとつ言ってやれない自分に内心舌打ちをする。こんなにも俺を頼ってくれているというのに、求めてくれているのに、その沈んだ表情を晴らしてやる最善の言葉が手繰り寄せられない。
＿＿＿俺が、もっとうまく伝えられたら。
＿＿＿もっとうまく、お前を愛してやれたら。
不甲斐なさに奥歯を軋ませると、Aが思いきり擦り寄ってくる。俺の背中へ回る小さな掌が縋るように強く服を握り直す。何かを堪える様子で少しの間を置き、腕の中で控え目な声を押し出した。
『たまに、凄く不安になる。こんなに好きでいてくれてるのに、もっとたくさん満たして欲しいって思っちゃう』
「A・・・、」
『飛雄、好きって言って』
緩やかに持ち上げてみせたその表情に呼吸が止まる。潤んだ大きな双眸には色が帯びて、甘い熱をせがむ桜色の唇が拒否を与えない誘惑をかける。
＿＿＿たまらなかった。こんなにも俺を必要としているAが。”あなたナシじゃ生きていけない”と思わせてしまうその表情が。
縋り付く眼差しに底知れぬ満足感が広がって、瞳が捉えて離さないAの物欲しそうな表情に口角が上がる。言葉に出来ないほどの、細胞まで全てが満たされていく感覚。───Aには俺が必要なのだという、この上ない優越感。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3874人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
惠音(プロフ) - 名無しさん» キュンですね〜！素敵なシチュありがとうございます！勉強会の話が終わったら、ちょいちょい物語動かしていこうかな〜と思っています！永山さんも登場する予定なので楽しんでもらえたら光栄です....！ (2月12日 19時) (
レス) id: eb865940ec (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 欲望が抑えられないです (2月11日 23時) (レス) id: 5d4eebdee6 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - ほのぼの会やちょい甘な会もいいけど、最近出てこなくなった永山さんが影山にアクションかけて夢主ちゃんが不安になってちょっと永山さんと取り合い的なのしてそれでも夢主ちゃん以外に興味ない影山にカウンターくらって影山と夢主ちゃんの激甘な会が見てみたい (2月11日 23時) (レス) @page44 id: 5d4eebdee6 (このIDを非表示/違反報告)
惠音(プロフ) - Lunaさん» 大好きだなんて嬉し過ぎます....！性癖に刺さる影山くんになれていて良かったー！少しでも日々の癒しになれたら嬉しいです！ (2月5日 7時) (レス) id: eb865940ec (このIDを非表示/違反報告)
Luna(プロフ) - 惠音さん» わぁー！お返事ありがとうございます！ほんと無限大です！！惠音さんのお話大好きです！！ (2月4日 23時) (レス) id: ae56522889 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：惠音
| 作成日時：2023年12月9日 20時
