324. ページ31
.
満足いくまでカメラに収めると新しく残された二人の想い出に胸が弾む。こうして”他愛ない幸せな日々を過ごしていたんだ”って、大人になったときに一緒に語り合えたらいいな。「あんなことがあったよね」って、くだらない想い出話に笑い合えたらいいな。
＿＿＿十年後も、二十年後も、ずっと隣で。
少しだけ感傷的になり始めてしまった思考をかぶりを振って払い除け、何枚かの画像を選別して飛雄宛に送信する。ケータイの液晶画面に映る時刻に小さく嘆息すると、突然の疑問を口にする飛雄が思い出したように話し始めた。
「赤ずきんって、確か狼に喰われる話だよな」
『言い方。いやまぁ、間違ってはいないけど』
「喰われるだろ」
『最終的には狩人が助けてくれるけどね』
話を端折りすぎてただの残酷な童話になっているが、確かにお婆さんに変装した狼に食べられるシーンはある。だが最終的には通りかかった狩人に助けられて一件落着で終わる物語だったと思う。
古い記憶を掘り返す私の目端で動いた気配に、意識を傾ける。しかしそれを確認するよりも早く、ぐらりと大きく視界が揺れ動いて背中が床にピッタリとくっつく。何度か瞬きをした瞳が捉えたのは、高い体育館の天井を背にした飛雄の姿だった。
＿＿＿体育館の照明を遮る大きな影。それがいま自分自身にかかっているという現状に、ワンテンポ遅れて気が付く。
目の前で悪戯に持ち上げられた口端に焦燥と恥ずかしさが駆け巡り、強ばる身体が一瞬にして熱を宿す。
「狩人でも呼んだらどうだ」
『ッちょっ、退け！変態狼！』
「ひでぇ言われようだな」
『トッ、トリックオアトリートは！？お菓子あげたらイタズラしないのがルールじゃん！』
「狼は菓子なんて喰わねぇだろ」
それ以上の拒否を紡がせないとでも言うように、悪戯に歪んだ唇が押し付けられる。取り入れた酸素ごと飲み込んでしまうような強引な口づけが思考を麻痺させて、胸元を押し返す力がどんどん弱くなっていく。
本当になんて男だ。こうなってしまえば抗えなくなるとしっかり理解をしている。満たされてしまえば、私が更なる刺激を求めたくなるのを分かっているんだ。
───・・・ムカつく。飛雄のくせに。バレー以外ポンコツだったくせに。
逆らえない現状が悔しくてきつく睨み付けてやれば、切れ長な双眸が満足気に細められる。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3874人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
惠音(プロフ) - 名無しさん» キュンですね〜！素敵なシチュありがとうございます！勉強会の話が終わったら、ちょいちょい物語動かしていこうかな〜と思っています！永山さんも登場する予定なので楽しんでもらえたら光栄です....！ (2月12日 19時) (
レス) id: eb865940ec (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 欲望が抑えられないです (2月11日 23時) (レス) id: 5d4eebdee6 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - ほのぼの会やちょい甘な会もいいけど、最近出てこなくなった永山さんが影山にアクションかけて夢主ちゃんが不安になってちょっと永山さんと取り合い的なのしてそれでも夢主ちゃん以外に興味ない影山にカウンターくらって影山と夢主ちゃんの激甘な会が見てみたい (2月11日 23時) (レス) @page44 id: 5d4eebdee6 (このIDを非表示/違反報告)
惠音(プロフ) - Lunaさん» 大好きだなんて嬉し過ぎます....！性癖に刺さる影山くんになれていて良かったー！少しでも日々の癒しになれたら嬉しいです！ (2月5日 7時) (レス) id: eb865940ec (このIDを非表示/違反報告)
Luna(プロフ) - 惠音さん» わぁー！お返事ありがとうございます！ほんと無限大です！！惠音さんのお話大好きです！！ (2月4日 23時) (レス) id: ae56522889 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：惠音
| 作成日時：2023年12月9日 20時
