294. ページ1
.
大接戦となった白鳥沢学園との決勝戦は烏野高校が勝利を収め、全国への切符を手にした。まさに波乱の展開だったのだろう。絶対王者であった白鳥沢を打ち破った烏野にテレビ関係者が騒いでいた。忙しなくケータイで連絡を取り合う姿に”どんなもんだ”と少しだけ鼻高々になってしまうのは隣にいる仁花ちゃんも同じようだ。
＿＿＿
ようやく見えてきたんだ、皆が描いてきた夢が。
会場をあとにし、高揚したままの部員達が帰り支度を進めていく。日向くんと並んで小競り合いをしている後ろ姿にどうしようもない昂りが湧いてくる。祝賀を送って少し話したきり、まだ全然触れ合えていない。その背中に思いきり抱き着きたいのを堪えている私に、仁花ちゃんが柔らかく吹き出した。
「ふふっ。Aちゃん、影山くんとイチャイチャしたいのが全面に出ちゃってるよ」
『えっ、うそ』
「だってほらその顔、”影山くん大好き”の顔だよ？さっきからずっとネックレス弄ってるし」
確信をつかれて顔が熱くなる。無意識に弄っていたネックレスをそっと手放しながら下唇を噛むと、くすくすと喉を鳴らした仁花ちゃんの反応が耳朶を打った。私ってそんなに分かりやすいだろうか。
伏せていた目蓋を緩やかに持ち上げる。熱い想いが届いたのか、鼻先を移動させた飛雄が凛とした蒼い視線を寄越してきた。交わる瞳に嬉しさが駆け巡り、咄嗟に浮かべられたのはかなりぎこちない笑顔だったと思う。何かを察した飛雄が身体を向き合わせると、彷徨わせた視線が再度私へ固定される。腹を括ったかのように真剣な顔つきで。
「・・・ん」
『え、』
「早く来い」
私の瞳が捉えたのは、ぶっきらぼうな台詞と共に控え目に両手を広げてみせる飛雄の姿。険を刻んでいた面貌は気恥しそうなものへと変化し、尖らせた薄い唇がもう一度「早くしろ」と催促を送る。
＿＿＿ほんと、敵わないよなぁ。どうして分かっちゃうんだろう。そうやってまた無自覚に私を引きずり込んでいく。
「先に行ってるね！」と去っていく仁花ちゃんと清水先輩を見送る。涙を誤魔化して顔を伏せると、走り出したい感情を抑え込んで静かにその胸元へ額を預ける。腰に回された温もりが優しくてぐりぐりと顔面を擦り付けていると、呆れたように笑みを零したのち紡いでみせた。その台詞に、私はまた溺れてしまうのだ。
「やっぱ俺、お前がいれば無敵かもしんねぇ」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3874人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
惠音(プロフ) - 名無しさん» キュンですね〜！素敵なシチュありがとうございます！勉強会の話が終わったら、ちょいちょい物語動かしていこうかな〜と思っています！永山さんも登場する予定なので楽しんでもらえたら光栄です....！ (2月12日 19時) (
レス) id: eb865940ec (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 欲望が抑えられないです (2月11日 23時) (レス) id: 5d4eebdee6 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - ほのぼの会やちょい甘な会もいいけど、最近出てこなくなった永山さんが影山にアクションかけて夢主ちゃんが不安になってちょっと永山さんと取り合い的なのしてそれでも夢主ちゃん以外に興味ない影山にカウンターくらって影山と夢主ちゃんの激甘な会が見てみたい (2月11日 23時) (レス) @page44 id: 5d4eebdee6 (このIDを非表示/違反報告)
惠音(プロフ) - Lunaさん» 大好きだなんて嬉し過ぎます....！性癖に刺さる影山くんになれていて良かったー！少しでも日々の癒しになれたら嬉しいです！ (2月5日 7時) (レス) id: eb865940ec (このIDを非表示/違反報告)
Luna(プロフ) - 惠音さん» わぁー！お返事ありがとうございます！ほんと無限大です！！惠音さんのお話大好きです！！ (2月4日 23時) (レス) id: ae56522889 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：惠音
| 作成日時：2023年12月9日 20時
