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つい数分前に歩いた見慣れない通路を再び視界に映す。試合中はあの白熱したコートから目を離したくないし、飛雄の勇姿を一秒たりとも見逃したくない。余計なことに意識を向けなくて済むように、私は毎回試合前に女子トイレへ駆け込んでいる訳だ。
行き交う人々に目を走らせてから鼻先を正面へ戻すと、ユニフォームに黒いジャージを羽織る飛雄を捉えた。いよいよトイレにまでついてくるようになったのかと多少の危惧が滲んだが、そんなの今更だとすぐに思考を切り替える。事毎について回っている日々だ、むしろここまでよく持った方と感心するべきだろう。
私を中心に映した仏頂面に「お迎えご苦労様です」と茶目っ気な笑みを向けてやると狭い眉間が更に寄せられる。
『緊張してる？』
「別に、あんまり」
肩を並べて、来た道を引き返す。普段より少しだけ強ばった面貌を下から覗き込み、表情とは裏腹に紡がれた楽観的な文字が私の歩みを止めさせる。
＿＿＿きっと嘘だろうと瞬時に察した。描き続けた夢へ手を伸ばすための大事な大会、いくら飛雄でも何かしら強く思うところがあるはずだから。
だけどそれを素直に言葉に乗せることが出来ないのだろう。彼の中に高々と聳え立つ強固なプライドや意地のせいで。何処までも面倒なその性格に慈愛めいた笑みが落ちる。
遅れて歩みを止めた飛雄が身体を向き合わせる。訝しげな眼差しを肌に感じながらジャージのポケットへ手を滑り込ませると、渡す予定だった白い猫のキーホルダーを引っ張り出す。
『緊張とか不安とか、そういう余計な感情は全部私が引き受ける。だから飛雄は普段通り格好良いところを皆に見せつけてやってください』
両手に収まる小さなぬいぐるみから視線を持ち上げ、心の中に湧いた想いをそのまま紡いでいく。
いま抱えているそのマイナスな感情が少しでも晴れるように、私に出来る精一杯をしてあげたい。出来ることなんてたかが知れてるけど、なんの気休めにもならないかもしれないけど、それでも飛雄の力になってあげたい。
白い猫の口元を、横一文字に結われた薄い唇へ優しく押し当てる。ぬいぐるみとの突然の口づけに目を丸くした飛雄に「頑張れ」と照れくさいエールを送れば、途端に面映ゆさを滲ませたその唇が迎えに来た。
目と鼻の先で変化していく強気な笑みに甘い痛みが広がると、間を置かずして互いの影が再び重なる。
「お前のそういうところ、すげぇ好き」
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惠音(プロフ) - mbftmmさん» 嬉しすぎるお言葉ありがとうございます！独特な書き方をどう感じてもらえるか不安だったんですけど、そう言っていただけて本当に嬉しいです....！まだまだ物語は続きますので、最後までお付き合い頂けると幸いです！！ (10月12日 10時) (
レス) id: eb865940ec (このIDを非表示/違反報告)
惠音(プロフ) - yokyo586さん» 励みのお言葉ありがとうございます！影山くんとのお話だけど、月島くんの良さを出来る限り表現していきたいと思いまして....！幸せだけじゃなくて切なくて辛い感じとか、リアルな恋愛を書くよう心掛けていますので....そのへんも楽しんで頂けたら幸いです！ (10月12日 10時) (レス) id: eb865940ec (このIDを非表示/違反報告)
mbftmm(プロフ) - 主様は天才ですか？天才ですね？きゅん死寸前です……言葉の綴り方も上手で世界に入り込んでしまう…！！！応援してます！！！！！！ (10月12日 0時) (レス) @page11 id: 17c26d4027 (このIDを非表示/違反報告)
yokyo586(プロフ) - 切ない···影山大好きなのに、月島を応援したくなっちゃう···読み手の心を鷲掴みに出来る作者様すごすぎます！キャラの心情や背景がすっごく分かりやすくてスっと物語に入れちゃいます！ (10月9日 21時) (レス) @page11 id: 1b6531e2bb (このIDを非表示/違反報告)
惠音(プロフ) - まゆ華さん» この作品を見つけてくださってありがとうございます！面白いと言ってもらえて嬉しいです....！これからも楽しんでもらえるように頑張りますので、よろしくお願いします！ (10月4日 20時) (レス) id: eb865940ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：惠音
| 作成日時：2023年9月30日 19時
