私だけしか知らない場所 ページ2
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あるテレビ局の楽屋口から、角を曲がって曲がって。
さらに自販機の横を通り過ぎて、さらに曲がってすぐに出現する扉。
そこは、この局の非常階段のひとつである。
大きな非常階段は別にあるし、業務用エレベーターだってもちろんある。撮影スタジオに近いわけでもない。
ましてや、この場所は外から見えないとは言え、空気は外と同じ。
そうなってくれば、ここに人はほとんど来ない。
私は、このテレビ局に来るたび、この場所にやってくる。
なんとなく1人になりたい時、とか。
何かうまくいかないことがある時、とか。
扉を出て、下へ向かう階段の5段目くらいの右端。
ここに座って、外の音が聞こえるくらいの音量で音楽をイヤホンから流して。
右横にもたれかかって目を瞑る。
15分くらい経っただろうか。
後ろから、ぎいって音が聞こえた。
ぱっと、後ろを振り返れば、見知った顔が立っていて。
「あれ、Aさん、?」
『ふくら、さん?』
QuizKnockの通称ふくらP。
YouTuber総出演のイベントで、一度ご挨拶したことがある程度の面識だ。
扉を閉めた彼は、立ったまま、微笑んで。
「お久しぶりです、びっくりしました」
『あっ、お久しぶりです。私もです』
「テレビの収録ですか?」
『今日は音楽番組の収録で』
「あ、そうですよね。僕、新曲聴かせてもらいました」
『ええ、ありがとうございます。ふくらさんは、収録ですか?』
「僕は、実は今日は裏方で。今ちょっとした休憩です。」
『そうなんですね!すごいですよね、QuizKnockのみなさん多方面で活躍されていて』
いやいや、そんな、なんて謙遜する彼は、ほんとに頭がいいんだろうなあ、なんて、思ったりして。
そのまま階段の一段目に腰掛けた彼は、こちらを向いて。
「この場所、よく来るんですか?」
『そ、うですね。ふくらさんは?』
「僕はたまに。時間が空いた時に外の空気吸いたいなあって」
『へえ、私ここで誰かに会ったの初めてで。びっくりしちゃいました、最初』
「ふふ、僕もです。」
『穴場、ですよね、ここ』
「ね、僕も同じこと思ってました」
そう微笑む彼に、私も微笑んで。
なんだか、似たような空気を感じた。
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エンスイ(プロフ) - しほうさん» コメントありがとうございます…!fkrさんも主人公もどちらも好きでいてくださるコメントでとてもありがたいです(T_T ) 読んでいただきありがとうございました! (2021年4月21日 14時) (レス) id: 275b77238f (このIDを非表示/違反報告)
しほう(プロフ) - めちゃっくちゃ面白かったです。fkrさんの優しさやある種の男らしさ、主人公さんの覚悟に胸がぎゅうっとにりました。読後の余韻がすごい…。素敵な作品を、どうもありがとうございました。 (2021年4月21日 10時) (レス) id: 5a9db02a2a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エンスイ | 作成日時:2021年1月28日 0時