汗ばむ夏の色/漣ジュン ページ8
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彼女は、少し前まで俺たちとは全く別の世界に居たらしい。諸々の事情があって、急にプロデューサーになったんだとか。
「…漣くん」
「……あ、あぁ…なんか用っすか？」
隣にいる彼女のことを考えていると、ぼうっとしてしまっていたらしく、反応が遅れてしまった。
何でもない風を装ったものの、目敏い彼女は俺の一瞬の動揺とか、呆けを感じてしまったらしい。
大丈夫、などと俺の顔を覗き込んでくる。
「(……勘弁して欲しいっすよ、本当)」
やはり只のファンとプロデューサーでは、距離感が違って、少しだけやり難い。それ故に、何だか必要以上に彼女を意識してしまう。
「(…何なんすかねぇ……)」
そんな事は、わざわざ自問する間でも無く分かっていることの筈なのだ。プロデューサーとアイドル。それだけ。
そう割り切れたら、どんなに楽か。
「今日も暑いね」
「まあ、そうっすね…五月は初夏と言いますし…」
「汗かいて気持ち悪いや」
そうして彼女は、パタパタと手で顔周りを扇いだ。その仕草と共に、改めて彼女をよく見てみれば。
額を伝う汗。汗ばんで湿ったシャツ。そこから覗く、健康的な肌。
……いけない。今日はそんな事しか考えていない。
「…漣くん、本当に大丈夫？ずっとぼうっとしてるよ？」
「すいません…ちょっと、色々……」
言い訳するように、言葉を濁らせれば、彼女は益々心配そうに顔を近づけてくる。
ーーああ、もう本当に。
「…っえ、ん！」
「……」
もう、どうにでもなってしまえ。
そんなやけくそな思いを込めて、近付いてきた彼女の後頭部を力強く引き寄せ、唇を合わせた。が、もちろん直ぐに離れる。
…そして、「漣くん！？」と叫ぶ彼女に背を向け、首を回して顔だけを向けた。
「…あんま不用意に近づかない方がいいっすよ。こうなるんで」
「えっ、ちょ…」
それだけ言うのが精一杯で、慌てふためく彼女を残して、俺はその場から立ち去った。
赤く染まった口元を手の甲で隠し、それを暑さのせいにして……
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作者名：enst青春合作 x他9人 | 作者ホームページ：
作成日時：2018年5月20日 21時
