もしもの話をしよう/逆先夏目 ページ19
「夏目、もしも願いが何でも一つだけ叶うとしたら何をお願いする?」
「今日のもしも話カナ?『ねえさん』」
だって気になったから、なんて君は笑う。
紅茶を光に透かしたような瞳は細められて、
瞳と同じ色の髪はふわりと揺れていて、
緑色のネクタイをしたボクとは違って青いリボンをしている。
君ともしも話をするのが話すのが末っ子のボクの特権だった。
「そうだナ…ボクは何も願わないヨ」
「わ、意外な答え。その心は?」
「ボクには居場所モ、にいさんたちモいる。
これ以上に欲しイものがないんダ。」
そう言うと彼女はぽかんとした表情の後、すぐさま笑顔に戻った。
「夏目らしいね」
そう言ってふわりと笑う彼女からは甘い匂いがした。
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「どうしテ…どうしテこうなったノ…?」
真っ白で無機質な部屋の中、何もかも失ったボクはいた。
__目の前には、瞼を固く閉じて眠る君がいた。
「ねえさん、何寝てるノ?」
震える手で眠る君の髪を、頰を撫でる。
君の笑顔は消えていて、以前よりも痩せ細っていた。
それなのに髪は変わらない紅茶色で、
彼女のあの優しくて甘い匂いがまたした。
「起きなヨねえさん。帰ろウ?
にいさんたちもねえさんを待ってるヨ?」
そんな虚しい嘘も今は吐くしかなかった。
ボクは君に言えなかったことがある。
本当は願い事があったこと。
けれどそれは一生叶わないから願わなかったこと。
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「起きてヨ!起きてねえさん!ねえさん……Aさん……」
『貴女』に『姉』以上の気持ちを抱いてしまったこと。
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作者名:enst青春合作 x他9人 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年5月20日 21時