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えっと驚きつつも声は出せなかった。
ただまーくんの唇がアイスを舐めとるのを視線で追うことしかできず、私のアイスが、とか最初のひとくち、なんて言葉は頭の中で呟いた。
「もーらい」
私の、と口を開く。
なんて言ってもこれは彼が買ってきてくれたものだから、文句なんて言えないんだけど。冷た、と目を瞑る彼がなんだかかわいくてその先はいう気になれなかったから、きっと同じこと。
「最初のひとくちが美味しいのに」
「悪かったって。はい、あーん」
彼の指に絡め取られたスプーンが、綺麗にまあるくいちごの果肉が入った部分を掬いとる。
あーん、なんて小学生の頃みたいだ。よくやっていたはずなのに、中学、高校、と年を重ねるうちにだんどんとやらなくなっていった。もちろんそれは当然のことだし、今も堂々とやっていたら結構びっくりだ。
久しぶりのそれが今となっては新鮮で、何のためらいもなく口に含む。もう少し躊躇すべきだったかな、もう高校生だしな、と思ったけれどこの部屋には二人きりだ。まあいっか。
そう思いながら味の濃いいちご部分を転がす。
私がいちごを味わっているうちに、まーくんもまた一口食べた様だった。さっきまでついていなかったのに、今ではアイスが口の端にちょこんと付いている。
「ねぇ、口の端ついてるよ」
「まじか」
ぺろりと付いたアイスを舐める。薄く開いた唇から、赤く熟れた舌が覗いた。
いちごみたいだ、と反射的に思った。別に今いちご味のアイスを食べていたからとかではなくて、多分ソーダ味のアイスを食べていたとしてもそう考えてしまうと思う。
特別舌が好きな趣味ですなんてことはないのだけれど、何故か私は、まーくんの舌に熱中してしまっていた。
もう口内にしまわれてしまったというのに、未だに頭から離れてくれない。
まーくんの、舌。赤くて、つるりとしてた。
まるでいちごみたい。
こんなこと考えて変態みたいだ。
私は変態じゃない。だから気付かないふりをしていたい。
私、まーくんの舌にどきどきしてた。ちらりと覗いただけのそれに。
多分夏のせいだ。冷房もろくに聞かない生徒会室のせい。ちょっとだけ、暑さに頭がやられてしまっただけ。
私はちっとも悪くない。
書類に汗を垂らして滲ませたことも、まーくんの舌にどきどきしてしまったことも。
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作者名:enst青春合作 x他9人 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年5月20日 21時