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Aはお腹と口元を押さえながら机に突っ伏した。あの大量のパフェを無理やりお腹に詰め込んで胸焼けがする。
「まあ、私の能力については秘密です……」
「うーん……分かった、瞬間移動ね」
「違います」
「じゃあ大食い。ペロッと食べちゃったものね！」
「……そういうことにしておきましょう」
明里は嬉しそうに微笑む。
「うふふ、やっぱり若い人と話すと若返るわ」
「十分お若いですよ……」
「昇にも言ってあげて、もうおばあちゃんって呼ぶなって」
「里親さんだとか？」
「うん」
「昇君のご両親は？」
「……ちょっと事情があってね」
Aが尋ねると、そこで初めて明里は辛そうに瞳を伏せた。
「昇にとっても辛いことなの。ごめんね、分かってちょうだい」
「いえ……」
Aの脳裏に明るく笑って「せんぱーい！」とAを呼ぶ昇が浮かぶ。
……なんだっていいか。
Aは思い直して席を立った。
「そろそろ寮に戻ってみましょうか。昇君、帰ってきてるかも」
しかし、店を出た明里の足は寮には戻らなかった。用事があったのを忘れていたと、駅のほうへ歩き出す。
Aも見送りについて行った。
「本当にいいんですか？」
「ええ」
明里は目尻の皺を深めて笑った。
「ありがとう、貴重な休みの日をこんなおばあちゃんに付き合ってくれて」
「……」
その笑顔に胸が騒つく。
分かったのだ。昇に会おうとしなくなったわけが。
「……私に気を使う必要はありませんよ？」
Aの言葉に明里が凍り付いた。
「総帥が私に身寄りがないと言っていたのを、あなたは覚えていたのでは？」
Aは続ける。
自嘲するような笑みを口元になぞらえて。
「あなたは優しい方なんでしょう。だから私を差し置いて自分だけ昇君に会えなくなってしまっ──」
Aの。
自分自身をナイフで傷つけていくような言葉を、明里は、Aを抱き締めることで遮った。
「──傷つけてしまってごめんなさい。でもそれが分かってしまうのは、あなたが優しいからよ」
それは。Aの幸せだった幼い頃を呼び起こす。
この抱擁は、音無がくれたものとも、坂野上のじゃれつきとも違った。
母の。父の。それと似ていた。
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