【あんスタ】NightTime-Parade!!【短編集】

雨余曲折／斎宮宗 ページ22

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勢いを増した風が音を立て吹き付け、木がさわさわと揺れる。ぽつりと落ちたひとしずくからコンクリートが黒く染まるのにそれほど時間はかからなかった。
インターンも本格的に始まって卒業後の進路はどうするのだとか頭の痛いことでいっぱい。空同様、自分の心が荒れているのを感じる。バイト中なのだ、私情を持ち込んではいけないと自分を叱責した。お客さんの上質な薄紫色の瞳を見つめ直す。

「……って、い、斎宮くん！？」

彼＿＿＿＿斎宮宗とはご近所さんで小さい頃は一緒にお裁縫を教えてもらっていた。けれど彼が夢ノ咲学園、しかもアイドル科に入学してからはめっきり音沙汰無しだった。たまに会う鬼龍くんから様子を聞く程度だったのに急にどうしたのだろう。会えた嬉しさと困惑が綯い交ぜになって今なら百面相でもできそうだ。

「ああ、急な訪問になったことは謝罪しよう。ここのクロワッサンが絶品だと訊いてね。……それにしても『斎宮くん』とはまた他人行儀だね、昔のように宗と呼べは良いのに」
「えっと、じゃあ宗」

くちびるが溶けそうな名前を呼べば彼の表情が少しだけ和らいだ。どくんと疼く心臓を探られまいと彼と目を合わせないようにしようと必死になる。
お金を受け取り、クロワッサンを袋に詰める。仕事に戻ろうとすると呼び止められた。

「君に見せたいものがあってね……ああ、だが少しだけ待ってくれ。今だと見えない」
「そうだね、私も今バイト中だし、その方が都合いいかな」

今だと見えない。その言葉を不思議に思いつつも、募る恋心を隠す方が優先だった。


◯


「おまたせ！」

バイトが終わり、乱れてしまった髪を手ぐしで整えつつ店の前で待っていてくれた彼と合流する。
もう雨は止んでいて宗が左手に持つ傘は畳まれていた。そして空いた右手が伸びたかと思うといきなり私の手を掴んで＿＿＿＿こちらの心臓が跳ねるのにお構いなしで、しかもそのまま歩き出した。

「え、ちょ、ちょっと宗！？」
「いいから」

彼と手を繋いでいる。胸の奥を焦がすような感情が滲んでしまった手の温度が不快ではないだろうかと何度も彼の横顔を見つめては逸らして、その度にまた心臓がぎゅっと締めつけられて息ができなくなりそうなのに。けれど、それでも離されない手を信じてもいい？ そんな問いかけを込めて力を込め直すと骨張って少しごつごつした感触が手のひらを覆った。

明るいネオン街にマンション、お夕飯の匂いが漂ってくる住宅街、そして公園を過ぎて。段々と斜面の多い山道へと誘われていく。水たまりに足が引っかかってぴちゃりと飛沫が跳ねた。


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