この特別な日、君にこそ魔法を ページ8
そういえば、今日は――。
進級を控えて学院中がそわそわし出すこの頃だが、今日は大事な大事な弟の誕生日であった。
物語を追い出された私も守りたかった、ひとつ年下の可愛い後輩、私達の弟。
普通科で過ごす以上彼の元に会いに行くことは叶わない。それでも彼の誕生日を祝いたくて、けれど私にそんな資格がないのは分かりきっている。
どこへ行こうとしたのだろうか、少なくともアイドル科の校舎へ向かおうとしたことは違いない。
どこかへ行きかけた足をくるりと返し、ひとり寂しい帰り道を急いだ。
――――
(現在の時系列)
「ねえさんっ……」
どこか満身創痍にも見える、可愛い弟。
教室でもみくちゃにされた挙句ここまで連れてこられたのだという彼は、派手なユニット衣装も記念の襷も面白いほど似合わない疲れた顔でわたしを睨む。
「思ったより早かったね。あと30分は愚図るって話してたんだよ」
「子供みたいな言い方はやめてくれないかナ?」
拗ねたような顔をするがやっぱり彼は嬉しそうで、膨らんだ頬をしていても楽しんでいるのが隠せていない。
大人ぶってもまだまだ可愛い夏目くんが無性に愛しくなって、燃えるように赤い髪をふわりと撫でた。
「だから子供扱いはやめてヨ。ああもウ、今日はペースを乱されてばかりだネ……?」
「ふふ、あんずちゃんに迎えに行かせたのは正解だったでしょ。絶対来てくれるって思ってたよ」
「なるほどネ。やけにボクのあしらい方が上手いと思ったけド、ねえさんの差し金だったわけダ」
「嫌な言い方!」
じっとりとした視線を真正面から浴び、思わず苦笑が漏れる。
それでいい。私が夏目くんの誕生日を祝いたくて祝いたくて仕方なかったことは、今も昔も知らないままでいいのだ。大事な弟に見せたいものでもないし。
何だかんだ言って嬉しそうな彼を見るのは本当に安心する。無駄なことではなかったのだとわかるし、一年前からずっと見たかった光景だから。勝手な抗争に巻き込んでしまった後輩に、ただ喜んで欲しかっただけだった。
「……ねえ、夏目くん」
「なにかナ」
「誕生日、おめでとう」
「……聞き飽きるほど言われた台詞だけド、嬉しいものだネ。ありがとウ」
照れたように、小さな子供みたいに、花のように、頬を染めて笑う彼はまだどこか幼い。
やがて私達は卒業して、夏目くんをひとり残してしまうわけだけど、君ならきっとなんだってできるよ。
彼の得意な幸せの魔法を、私達がかけてあげたから。
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作者名:更科 | 作者ホームページ:
作成日時:2017年12月8日 13時