物語の外の鬱屈/第五話 ページ6
それから暫く、審判者――蓮巳敬人の『制裁』が続いたようだが、やがて彼の合図によって再び喧騒が生まれた。
どうやら【龍王戦】の主催者および出演者、観客を全員捕らえて連行する、という方針で命が下ったようだ。膨張する騒がしさは対象を捕らえようとする者、それから逃げる者それぞれによるものだ。
いや、それならば私もこんなところで油を売っている場合ではない。騒ぎが大きくなればきっとこちらにも逃亡が及ぶはず、となれば私も危険に晒されることになる。
生徒会に私の存在がばれる前に移動しなければ。
「ったく、何やってんだあいつらは〜?まだおとなしくしとけって言ったのに、なんであんなとこにいるんだよ!」
どこか気怠げではあるが若々しい艶のある声でため息混じりに呟いたのは、やや長めの前髪を留めて額を出した青年。2年生を象徴する青いネクタイと、自らが生徒会役員であることを示すバッジをつけている。
彼は深くため息を零したあと、ようやく私に気付いたのかパチリと目を合わせてからバツが悪そうに頬を掻いた。
「あー……普通科の3年生ですよね?【龍王戦】の観客ですか?まぁそうでなくても、生徒会の俺が言うのもアレですけど逃げた方がいいですよ。副会長にでも見つかったら厄介なんで」
「……捕まえなくて、いいの?全員ひっ捕らえろ、みたいに聞こえたけど」
よく通る声の『副会長』は、確かに周囲の関係者を逃さず全員捕らえるようにと言っていた。ステージの陰にいた私にもよく聞こえたくらいだ。
指摘すると、彼は居場所のない視線をキョロキョロと動かす。
「俺はやることがあるっつーか、なんつーか……あぁこんなことしてる場合じゃないっ、早くあいつらのとこ行ってやらないと!俺が見逃したことは内緒でお願いしますね、それじゃ!」
風のように、あるいは魔法のように、彼は名前を聞く間も与えずステージの方向へと走っていってしまった。
生徒会役員であるのに私を見逃したこと、副会長に見つかると厄介だと漏らしたこと、誰だかわからない『あいつら』とやらに『おとなしくしとけ』と言ったこと。順に思い返していけばいくほど不自然な点が多く、何やらきな臭い雰囲気がある。
普通に聞き流せばここまで気にならないのだろうが、この不穏な予感を拭えないのはもはや私の悪癖ですらあるだろう。
とは言え、ここでぼうっとしている暇はない。せっかくの彼の好意を無駄にしないためにも、私は身を翻して急ぎ気味に普通科の校舎を目指した。
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更科(プロフ) - あひる様さん» お返事遅れてしまってごめんなさい。読んでくださる方がいる限りは頑張ってみようと思います。応援ありがとうございます。 (2021年5月28日 23時) (レス) id: 749f88a822 (このIDを非表示/違反報告)
あひる様 - やばい!物凄く!!!好きですぅううううう!!!頑張ってくださいっ!!!!応援してます!!! (2021年5月20日 23時) (レス) id: fee7c2866e (このIDを非表示/違反報告)
更科(プロフ) - 姉系チート2号(データ消えちまった成)さん» こんにちは。わざわざコメント頂きありがとうございます!今は更新が難しい状況なのですがきちんと書きたいという思いはありますので、ゆっくりお待ちいただければと思います。 (2020年2月3日 11時) (レス) id: 749f88a822 (このIDを非表示/違反報告)
姉系チート2号(データ消えちまった成)(プロフ) - 達筆な文章に惚れました!無理はしない程度に、更新を楽しみにしています! (2019年12月17日 13時) (レス) id: 41a0229c91 (このIDを非表示/違反報告)
更科(プロフ) - さくぷらさん» さくぷらさま、コメントありがとうございます!返信が遅くなり申し訳ありません…。儚く透明感のある主人公を目指しておりますので大変光栄なお言葉をありがとうございます。ゆっくりになってしまいますが更新頑張ります! (2018年3月29日 11時) (レス) id: d6f890f9ad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:更科 | 作者ホームページ:
作成日時:2017年11月29日 18時