英雄か罪人か/第七話 ページ45
プロデュース科に籍を戻す。それは酷く魅力的な響きだが、彼の思わせぶりな表情を見るに額面通りの安直な話ではないのは明らか。
選択を迫られるも、その真意が窺えず手探りで詮索するように硬直していると、彼は立ち上がり、立て続けに更なる衝撃的な発言を零す。
「僕としては断然後者をおすすめするよ。Aちゃんの将来を考えても、こちらを選ぶべきだろう。……そうだね、渉？」
「……ええ」
彼が眼前にした私の頭上を通過したさらに背後、ちょうど扉のあたりに笑いかけると、それまで気配すらなかったそこに、確かに低く響く返事を聞いた。
衝動的に振り返れば、扉にもたれかかり話を盗み聞く大きな影に気圧され、息が詰まるほど驚いてしまう。
吸い込まれそうになる濃紫の瞳と、雲を割いたような長髪は、負の記憶として忘れてしまうにはあまりに特徴的だった。
「渉！」
「はい。お久しぶりですA、あなただけの日々樹渉ですよ……☆」
私の手を取り一礼する、芝居めいて仰々しいその仕草が、眠る記憶を次々に開花させていく。ひとつにまとめて結い上げていた髪は以前と違う形にセットされていて、どこか角の取れた印象を受ける。
「いつから渉はAちゃんだけのものになったんだろうね。感動の再会は後にしてくれないかな？まだ話は終わっていないよ、プロデュース科に戻るのには重大な条件がある」
「……英智」
「渉は僕の決定に文句なんてないよね？」
何か言いかけた渉も、もとより言葉など出ない私も、有無を言わさない絶対的な美美しさに口を噤んだ。
「プロデュース科に戻るのなら、僕の所属するユニット『fine』の専属プロデューサーになってもらおう。従えない場合、ただちに君を普通科へ送還する。つまり昨年のように数多のアイドルたちの面倒を見ることは不可能だよ」
「天祥院くんは、私がそばに居たら不都合じゃないの……？」
「まさか。僕はいつだって君のプロデュース能力を買っているし、アイドル業界の未来を見据えているんだ。賢明な君なら、正しい判断ができると思っているよ」
広く空いた窓から、春を思わせる穏やかな風が吹き込む。淡く細い金色の髪が風に透けて光を通すが、彼の影になる私には、陽の光は届かない。
「このあと、よかったらステージを見においで。面白いものが見られる。そして、僕のそばで未来に献身しようという気になるだろうね」
面白いもの……？
言いたいだけ言って生徒会室を出ていってしまい、後に残されたのは私と渉だけ。どうしようもない視線が渉とぶつかる。
渉の瞳は大きな不安に翳っていて、どこか嫌な予感を孕んでいた。
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更科(プロフ) - あひる様さん» お返事遅れてしまってごめんなさい。読んでくださる方がいる限りは頑張ってみようと思います。応援ありがとうございます。 (2021年5月28日 23時) (
レス) id: 749f88a822 (このIDを非表示/違反報告)
あひる様 - やばい！物凄く！！！好きですぅううううう！！！頑張ってくださいっ！！！！応援してます！！！ (2021年5月20日 23時) (レス) id: fee7c2866e (このIDを非表示/違反報告)
更科(プロフ) - 姉系チート2号（データ消えちまった成）さん» こんにちは。わざわざコメント頂きありがとうございます！今は更新が難しい状況なのですがきちんと書きたいという思いはありますので、ゆっくりお待ちいただければと思います。 (2020年2月3日 11時) (レス) id: 749f88a822 (このIDを非表示/違反報告)
姉系チート2号（データ消えちまった成）(プロフ) - 達筆な文章に惚れました！無理はしない程度に、更新を楽しみにしています！ (2019年12月17日 13時) (レス) id: 41a0229c91 (このIDを非表示/違反報告)
更科(プロフ) - さくぷらさん» さくぷらさま、コメントありがとうございます！返信が遅くなり申し訳ありません…。儚く透明感のある主人公を目指しておりますので大変光栄なお言葉をありがとうございます。ゆっくりになってしまいますが更新頑張ります！ (2018年3月29日 11時) (レス) id: d6f890f9ad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：更科 | 作者ホームページ：
作成日時：2017年11月29日 18時
