涙雨とセニシエンタ 第二幕【あんスタ】

繰り返す邂逅/第五話 ページ21

翌日の昼。頭のネジが飛びそうなほど、いつになく緊張していた。
昨日、零さんと交わした約束が反芻される。

――『狙うなら、昼休みじゃ』。

『我輩は何かと目立ちやすい。しかしアイドル科にはまだ、新生プロデュース科の存在を認知していない者もいる。Aなら怪しまれたとて、転校生の嬢ちゃんに成りすますことができる』


つまり、お前は誰だなどと聞かれることがあったとすれば、この度新設されたプロデュース科の第1号だ、と答えればいいだけ。
何も難しくはない。ただ堂々とすればいいのだ。



「Aちゃん、お昼食べよ！」
「今日お弁当ー？」

いつもなにかと気にかけてくれる、普通科のクラスメイト。クラス替えから早々に昼食をひとりで取っていた私を見兼ねてか、よく一緒にランチタイムを過ごしてくれていた。
3人組になるのは女子としては厄介だが、彼女たちが会話をしていると、私は何も話さなくて済む。だからいつも共にいたのだが、今日は違う。

「……ごめん、今日お弁当忘れちゃって。購買行ってくるから先に食べてて」
「あ、そうなの？」
「珍しい。行ってらっしゃ〜い」

嘘をつくのは、不貞を働いたように良心が痛む。昨日、軽音部室にいたせいで午後の授業を丸ごと欠席してしまっても、彼女たちは何も聞かなかった。もちろん興味が薄い可能性もあるが、それ以上に、以前【龍王戦】を見た際に改めて私に『アイドル科の革命により潰されたプロデューサー』という認識がなされたせいもあると思う。


ひらひらと手を振って送り出す彼女たちを尻目に、ロッカーから紙袋を引っ掴んでアイドル科校舎へと続く廊下に体を向けた。昼休みのうちに戻ってこなければ。

単身乗り込む、その前にトイレに立ち寄る。
いそいそと家から持ち出したこの袋には、浅葱色に近い青の鮮やかなジャケットが入っている。私が去年身につけていた、アイドル科とプロデュース科でお揃いのブレザーだ。

今着ているブレザーを脱いで、袋から別のを取り出す。軽く振って整え、袖を通した。久々に着用すると、普通科のものとそう変わりはないというのに、気が引き締まる感じがした。

個室を出て鏡を見ると、どこか落ち着かない『プロデュース科』の生徒が映った。時間が戻ったみたいでもあるし、別人のようにも見えて、なんだか変な気分だ。

マスターキーを忘れず移し替える。同じポケットに零さんお手製の偽造学生証を入れるのも忘れない。プロデュース科であれば、許可証ではなく学生証で校舎に入れる。


いよいよアイドル科の校舎に挑む。ここからは、私ひとりのミッションだ。

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