約束/3 ページ10
「……いいことを、おしえてあげましょう」
ちゃぷん、と水から手を出したかと思うと、彼は私に手招きする。得体の知れない人(?)に内心怯えながら近づくと、彼はその手で私に触れた。水に浸かっていたからか、氷のようにひんやり冷たい手のひらにびくりと体が跳ねる。
「とおくから、みるんです」
「…………は?」
ぽかんとしている間に、彼は手を離した。そしてまた、口を開く。「かわりたいのなら、そうしてください」……意味がわからない。
これは逃げるが勝ちだ。たぶん、あんまり関わっちゃいけない部類の人なんだ。
「もしくは、ぼくが__」
「わ、わかりました!」
頷いて、ありがとうございます、とかなんとか口だけでどうにかしてあしらうと、私は後ずさり気味にその場を後にした。
その不思議な人物が、零さんたちとともに「五奇人」と呼ばれていることを、そのときの私はまだ知らない。
「……な、夏目くん?」
逃げた先で丁度夏目くんを見つけた。かと思えば、彼は草むらの影に隠れて何やらコソコソしている。……あ、怪しい。
そっと近づくと、漸く彼は私に気づく。
「ア、A。……下がっテ!!!」
「わぶっ!?」
と思えば、彼は思いっきり私の頭を掴んで地面に沈めた。ぼ、暴力反対……!
「頭をあげないデ、静かにしてネ。でないと零にいさんたちにバレちゃうかラ」
「へ、零さん……?」
すると、夏目くんは無言で視線を草むらの外に向けた。つられて、私も視線を動かす。
草むらの外は丁度フェンスで仕切られていて、どうやら夢ノ咲学院の門前の道のようだ。
そこにいたのは、零さんと……知らない女の子だった。ミルクティー色に髪を染めた、元気そうな女の子。
「……だれ……?」
「シッ」
夏目くんに口を塞がれ、物理的に黙らされる。すると、向こうの会話が微かに聞こえてきた。
「……好きです」
恥じらいのこもった、女の子の声。その声に、どくんと心臓が高鳴る。なに、この気持ち。
知らず知らずのうちに、私は拳を握りしめていた。何故だか、頰を汗が伝う。
……これはきっと、告白という場面を始めてみたからだろう。
「付き合ってください」
そう言って女の子は、ぎゅっとひとみを閉じた。まるで審判を待つかのように、強張った表情をしている。
「ごめん」
けれど、零さんが返したのはその一言のみだった。
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萩(プロフ) - まめだいふくもちさん» まめだちふくもちさんが見てくれてるなんて(涙)。最初コメント見た時に変な声がリアルに出ましたw。ありがとうございます。もう、本当に、夢主ちゃんにお伝えください。草葉の陰から応援してるよ!…と。 (2019年8月27日 22時) (レス) id: cfe465a6d3 (このIDを非表示/違反報告)
まめだいふくもち(プロフ) - 萩さん» 萩さん、コメントありがとうございます。夢主ちゃんの味方をしてくれる方がいて夢主ちゃんも嬉しいと思います……!ここで言うのもアレですが、私も萩さんの作品を楽しみにしております。お体に気を付けて、更新頑張ってください。 (2019年8月26日 20時) (レス) id: 59bafee163 (このIDを非表示/違反報告)
萩(プロフ) - ごめんなさい、これだけ言わせてください。零さんかっけぇ。零さんの言葉ひとつひとつが重くて、夢主ちゃんにはとても大切なことなんだなと思いました。夢主ちゃん!頑張れ!私は!君の味方だぞ!(大声) 毎日この話を読んでは癒されています。これからも頑張って下さい (2019年8月25日 22時) (レス) id: cfe465a6d3 (このIDを非表示/違反報告)
まめだいふくもち(プロフ) - 厘さん» コメントありがとうございます!夢主ちゃんの成長を温かく見守ってあげてください。同じ奇人Pにコメントいただけて嬉しかったです、ありがとうございます〜! (2019年8月13日 17時) (レス) id: 59bafee163 (このIDを非表示/違反報告)
厘 - …神様ですか?いや、神様ですね。ネガティブな女の子の成長とか見るの好きですし、三奇人の人達も大好きなのでこの作品に出会えて良かったです!熱中症に気を付けてお過ごしください、応援してます。頑張ってください!! (2019年8月12日 21時) (レス) id: 4d8a897ec9 (このIDを非表示/違反報告)
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