奇想舞台のシンデレラ/5 ページ38
「あ、あの」
「ん？何だね。時間がないから早く渉のところに行ってやってほしいのだけど」
ああ、くれぐれも舞台ではトレーンを引っ掛けないようにね、と念を押すように言われたけど、トレーンが何か分からない。裾の話かな？……じゃ、なくて。
「この、ドレス」
「ドレスが何か？採寸は間違えてないはずだよ」
「凄く、綺麗です」
伝えたかった感想を伝えると、宗さんは一瞬あっけにとられたような表情になった。だけれどすぐいつもの硬い表情に戻ると、言う。
「当然だろう？」
でも、その表情が誇らしげに思えたのは私の気のせいではないはずだ。
「綺麗だよ。行ってきたまえ」
続けて満足そうに言った宗さんに頭を下げて、私は再び舞台に戻った。
＊
『──ああ、まるで幸福な白昼夢のような姫よ。
私に誓いを立てることすら許さぬのなら、せめてあなたのお名前だけでも教えてください』
舞台は、進む。盛り上がりのワンシーン。0時の鐘が鳴り始め、渉さん演じる王子が逃げるシンデレラの腕を掴んで懇願する。渉さんが言葉を紡ぐだけで、まるで本当にここが舞踏会の会場であるかのような錯覚に陥ってしまう。夏目くんの言ったとおりだ。でも見惚れている場合じゃない。えぇっと、次は……。
その瞬間、見てしまった。舞台の外、こちらを一心に見つめる大勢の観客たちの姿に。
どっ、と汗が吹き出た。
あれ。このつぎは、どう動けばよかったんだっけ。頭の中が真っ白になる。今まで、私にしてはまともにやれていたのに。動くだけで、よかったのに。こんな体たらくじゃ渉さんに迷惑がかかる。彼だけじゃない、衣装を作ってくれた宗さんにも。零さんにだって、失望されてしまう。
じわり、と目頭が熱くなる。ダメだ、ここで泣いちゃいけない。ダメだ、ダメだ＿＿。
＿＿その、瞬間。頭に、ふわりと何かが被せられた。その布の中、渉さんの顔が間近になる。＿＿それはまるで、はたからみるとキスをしているような距離。思わず、息を飲み込む。同じように、観客席がほうっと感嘆の息を飲む音が聞こえた。
「大丈夫です。落ちついて」
布のヴェールの中、二人きりになったような視界の先で、渉さんが小声で呟く。薄暗いのに、渉さんだけの瞳だけが宝石のようにぴかぴかと輝いてみえた。永遠にも思える数秒のあと、私から離れた彼は跪く。
『……貴方が、その名前を教えてくれないのなら。一夜限りの想い出として、哀れな私にその唇の記憶だけでも、贈り物としてくださいませんか』
そしてガラスの靴が、落ちた。
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萩(プロフ) - まめだいふくもちさん» まめだちふくもちさんが見てくれてるなんて(涙)。最初コメント見た時に変な声がリアルに出ましたw。ありがとうございます。もう、本当に、夢主ちゃんにお伝えください。草葉の陰から応援してるよ！…と。 (2019年8月27日 22時) (
レス) id: cfe465a6d3 (このIDを非表示/違反報告)
まめだいふくもち(プロフ) - 萩さん» 萩さん、コメントありがとうございます。夢主ちゃんの味方をしてくれる方がいて夢主ちゃんも嬉しいと思います……！ここで言うのもアレですが、私も萩さんの作品を楽しみにしております。お体に気を付けて、更新頑張ってください。 (2019年8月26日 20時) (レス) id: 59bafee163 (このIDを非表示/違反報告)
萩(プロフ) - ごめんなさい、これだけ言わせてください。零さんかっけぇ。零さんの言葉ひとつひとつが重くて、夢主ちゃんにはとても大切なことなんだなと思いました。夢主ちゃん！頑張れ！私は！君の味方だぞ！(大声) 毎日この話を読んでは癒されています。これからも頑張って下さい (2019年8月25日 22時) (レス) id: cfe465a6d3 (このIDを非表示/違反報告)
まめだいふくもち(プロフ) - 厘さん» コメントありがとうございます！夢主ちゃんの成長を温かく見守ってあげてください。同じ奇人Pにコメントいただけて嬉しかったです、ありがとうございます〜！ (2019年8月13日 17時) (レス) id: 59bafee163 (このIDを非表示/違反報告)
厘 - …神様ですか？いや、神様ですね。ネガティブな女の子の成長とか見るの好きですし、三奇人の人達も大好きなのでこの作品に出会えて良かったです！熱中症に気を付けてお過ごしください、応援してます。頑張ってください！！ (2019年8月12日 21時) (レス) id: 4d8a897ec9 (このIDを非表示/違反報告)
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