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やがて元大公は、宰相たちを視界に捉える。
弱った瞳に、徐々に光が灯り始めた。煌々と燃える、怒りの光が。
「……お前達、よくも好き勝手に横暴を……。よりにもよって兄上を利用するなど!」
一時は一国を率いた男。
身体が衰弱していても尚、毅然とした声が室内に落とされた。
「宰相……そして後ろのお前達全員、裁きを受けるに値する!!」
「――やれ」
グルッペンの短い号令により、一瞬のうちに宰相たちは縛り上げられてしまう。
ぐう、と呻きながら抵抗するも、彼ら幹部の前では赤子のじゃれ合いも同じだった。
「貴様らぁ……!」
憎々しげにこちらを睨む視線など、グルッペンには痛くも痒くもない。
――事の次第はこうであった。
元大公の時代から宰相を担っていた男は、権威に飢えた人間だった。
現状以上の利益を求めず保守的な政治を施す元大公の意向に我慢がならず、自分が主導権を握ろうと目論む。
そこで目を付けたのが、元大公の実の兄である。それも、病弱で床に伏せった状態の。
自分が新しい大公になるよりも、元大公の血縁である兄をその座に担ぎ上げ、身体の弱いせいで内政に参加できない新大公の代わりに国を動かすほうが手っ取り早いと踏んだのだ。
着々と味方を増やし、遂に計画を成功させたのち。
彼は目論見通り、公国のさらなる繁栄、ひいては己の利潤のために手段を選ばぬ行いを重ねていた。
あろうことか、前大公とその側についていた優秀な要人たちを牢に閉じ込めてまで。
「そして貴様らは国の繁栄への足掛けに、愚かにも我々を選んだ」
心底楽しそうに笑い声を上げたのち、グルッペンは氷点下を超えるような蔑みを込めた目で彼らを見下す。
その視線に捉われた者は、背筋を駆け上がる悪寒から逃れようもない。
「――獲物を見誤ったなぁ、諸君」
「……っ!」
「餞別だ、受け取れ」
そう言って彼がぞんざいにも投げやったのは、いつかの焼き菓子であった。
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江之子(えのこ)(プロフ) - ささん» 初めまして、コメントありがとうございます。最新話のみならず読み返しまでしていただけるとは…。どうぞ、これからも長々とこの作品をご愛顧してもらえたらと思います!応援感謝です。 (2017年6月6日 16時) (レス) id: d4b2bfad59 (このIDを非表示/違反報告)
さ(プロフ) - 初めまして。えのこ様のお話が大好きです。最新話を追いつつ初めから読み直しては楽しませてもらっています。これからも応援しております! (2017年6月6日 15時) (レス) id: 91a8ff52f5 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(えのこ)(プロフ) - ahirudokuro112さん» コメントありがとうございます。毎日気にかけてくださるほど印象を残せたこと、一書き手としては嬉しいばかりです。それをこうして文字にして伝えてくださったことをとてもありがたく思います!今度とも、どうぞよろしくお願いします。 (2017年6月4日 0時) (レス) id: 7dbb78881f (このIDを非表示/違反報告)
ahirudokuro112(プロフ) - 初めてコメントさせてもらいます。いつもとても楽しく読ませて貰ってます。気づけば毎日朝と夜に更新されてないかチェックするのが日課になってます笑。ぜひこの気持ちをお伝えできたらとコメントさせていただきました。 (2017年6月3日 23時) (レス) id: f8fb3df520 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(えのこ)(プロフ) - 井戸らさん» コメントありがとうございます。私の場合、気が付いたらこんな文体になってまして、くどいかな…とドキドキしながら書いてる面があるのですが…。それを褒めていただけるのは何より嬉しいです。今後もお楽しみに! (2017年5月27日 23時) (レス) id: 7dbb78881f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:江之子 | 作成日時:2017年5月22日 1時