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幹部である隣の彼は、どう足掻いても目立つ。
その視線の中には、彼に色めいた憧れを抱く女性のものも少なからず混じっていて。そしてその視線は彼を認識した後、傍らに立つ私を射抜くのだ。
居心地の良いものでないのは、考えるまでもなかった。
意味があるのか分からないが、少しでも遮断しようと帽子のツバを抑える。
「カティちゃん」
『はい、行き先は決まりましたか?』
「カティちゃん、ごめん」
『はい?』
「俺、目立つな。嫌やろ、周りから見られんの」
ごめんな、と彼はまたもそう言って、申し訳なさそうに目を伏せるのだ。
太陽が翳るような、そんな表情が好ましくなくて、今度は私が笑う。
『シャオロンさん、今日はうんと楽しませてくれるんでしょう?』
「へ?」
『最初は、どこに連れていってくれるんですか?』
「……カティちゃん」
こんな視線くらい、蹴散らしてみせよう。
やがてへにゃりと緩んだ目元には、太陽が戻りつつあった。
「よっしゃ、そんなら最初は腹ごしらえでもしよか!」
『ちょうどお昼時ですもんね』
「そやそや」
先導し、歩き出そうとした彼はふと立ち止まって、持っていた荷物を全て左手に移した。
そうして振り返って、深呼吸を一つ。空になった右手が、つ、と上がりそうになって。
「カティちゃ――」
『どうしましたか? 早く行きましょう?』
「あ……う、うん、そやな」
空気を掴んだ右手はあえなく垂れ下がり、私に背を向けて歩いてゆく。
そのあと小さく落ちた肩が、彼が溜息を吐いたことを物語っていた。
こうして一線を引きつつも、彼と一緒に歩くことを選んだ自分に矛盾を感じながら、その背を追いかけた。
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江之子(えのこ)(プロフ) - ささん» 初めまして、コメントありがとうございます。最新話のみならず読み返しまでしていただけるとは…。どうぞ、これからも長々とこの作品をご愛顧してもらえたらと思います!応援感謝です。 (2017年6月6日 16時) (レス) id: d4b2bfad59 (このIDを非表示/違反報告)
さ(プロフ) - 初めまして。えのこ様のお話が大好きです。最新話を追いつつ初めから読み直しては楽しませてもらっています。これからも応援しております! (2017年6月6日 15時) (レス) id: 91a8ff52f5 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(えのこ)(プロフ) - ahirudokuro112さん» コメントありがとうございます。毎日気にかけてくださるほど印象を残せたこと、一書き手としては嬉しいばかりです。それをこうして文字にして伝えてくださったことをとてもありがたく思います!今度とも、どうぞよろしくお願いします。 (2017年6月4日 0時) (レス) id: 7dbb78881f (このIDを非表示/違反報告)
ahirudokuro112(プロフ) - 初めてコメントさせてもらいます。いつもとても楽しく読ませて貰ってます。気づけば毎日朝と夜に更新されてないかチェックするのが日課になってます笑。ぜひこの気持ちをお伝えできたらとコメントさせていただきました。 (2017年6月3日 23時) (レス) id: f8fb3df520 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(えのこ)(プロフ) - 井戸らさん» コメントありがとうございます。私の場合、気が付いたらこんな文体になってまして、くどいかな…とドキドキしながら書いてる面があるのですが…。それを褒めていただけるのは何より嬉しいです。今後もお楽しみに! (2017年5月27日 23時) (レス) id: 7dbb78881f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:江之子 | 作成日時:2017年5月22日 1時