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どうして私が、人工知能である彼女たちに混ざって、自身まで機械であることを装っているのか。
これにはまぁ、当然のように理由があるのだが、今はただ、この我々国に匿われている身である、ということだけ明言しておく。
私が生身の人間であることを知っているのは、先のエーミール様とグルッペン総統を含め、片手で数えられる人数だ。
同じ城内に暮らす人間にさえ、私が――私だけが、人間の使用人であるということを伏せている。
そのほうが都合がいいからだ。
書記長室、とプレートのかかった部屋に辿り着いた。
ふ、と短く息を吐いて、控えめに二度、ドアを叩く。
どうぞ、と返事がした。
『失礼いたします』
気を付けるべきは、抑揚のない声を発すること。
『トントン様。エーミール様より、こちらを預かって参りました』
「おん……ん」
机から目線を上げた彼――トントン書記長は、私の顔を見て目を瞠った。
が、すぐに表情を戻して私の側にあった机を指差す。
「ご苦労さん。そこに置いていってくれ」
『……かしこまりました』
「エミさんは、他に何か言うとった?」
『……夜まで所用で外出する、と仰っておりました』
「そうか。ん、了解」
『……失礼します』
ドアの前で一礼し、退室しようとする。
「――不便は、ないか?」
静かに問われた一言に、振り返る。
彼の視線はすでに、机上の書類に向いていた。
『……どこか気になる点がございましたら、何なりとお申し付けください』
「……。いや、何もないよ。すまんな」
『……それでは、失礼します』
ん、と小さく返事が聞こえ、私は今度こそ部屋を出た。
どこか疲れの消えない顔が思い浮かぶ。彼は、この城内でも特にお忙しい人だ。
こんな一介の使用人にまで、気を回していい人ではない。
例え彼が、"私"を知る一人だとしても。
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夜風−yorukaze−(プロフ) - とても面白くて、サクサク読めます!これからも頑張ってください! (2020年4月26日 17時) (レス) id: 58cfefca5b (このIDを非表示/違反報告)
江之子(えのこ)(プロフ) - wlthzさん» コメント、ご意見ありがとうございます。一言についてですが、このスタンスをとれるのも紙媒体の小説にはないサイトの魅力だと考えていますし、これを気に入ってくださる方も居るので、今後は思いついたときに挿入するスタイルに変更しようと思います。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 7dbb78881f (このIDを非表示/違反報告)
wlthz(プロフ) - コメント失礼します。1話終わるごとに挿入される一言で興が削がれます。物語自体は面白く読ませて頂いているので、そこだけが少し不満です。 (2017年7月24日 19時) (レス) id: 45eb196b6e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:江之子 | 作成日時:2017年5月9日 0時