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「…どうでしたか、この3日間。」
「んー………記憶ない」
あっはは…と乾いた笑い。祖母の家で親戚一同にもみくちゃにされ、口外禁止!と口止め料をパフォーマンスで支払ってきたところで私の家へと帰ってくる。
お酒と食べ過ぎと子守りの動きすぎと。若いという理由で毎年疲労困憊だった私と弟と共に、今年は榎木さんも無事仲間入りを果たした。
「文哉くん、お酒強くないんだね」
「彼は日本酒行けるのにビールがアウトらしくってですね」
「うわーお気の毒に」
二人でソファーへと着席すれば私はただひたすらに天井を見つめる。しんどい。マジ疲れた。そんなワードしか頭に過ぎらん。
「………初日さ」
その言葉で実家のリビングを思い出す。
「……はい」
「俺結構緊張してて」
「そうなんです?」
「節菜の方が慌ててたからね」
「…まぁ」
あははと笑われるが、そのまま話は続く。
「娘さんを〜って、あんなセリフを榎木淳弥として言うの初めてだし」
「…」
「心を込めるとか、そんなことは考えられなかったけどさ」
ただ言えることは、俺やっぱり節菜が好きだなって。
その言葉で目線を榎木さんに向けると、凄く真剣な顔でこちらを向いていて。
「…改めてだけど、俺と、結婚を前提に、お付き合いして貰えますか」
「…………今までも本気でしたよ」
私は、と付け足せば目を見開かれる。
「……俺も本気」
「…改めて、ですもんね」
律儀だなぁと笑った。笑ってるはずなのに涙が出てくる。あー、おっかしい。
笑えば笑うほど出てくるそれは、榎木さんが抱きしめてくれたことで彼の服に着いて染みてゆく。いつもいつも、幸せを共有してくれるこの人と一緒にいたいって、この数日で強く実感した。
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作者名:東城つばさ | 作成日時:2021年7月24日 0時