エンドオブストーリー

〇47__ご愁傷さまです ページ47

それからの私は、テヒョン君という大きな存在、刻一刻と迫る期末試験のことだけを考えて生活していた。


踊り場での出来事以来、セウンやヨンジュンとは会話を交わしていない。
顔を合わせてもすぐに逸らしてしまっていた。




「忘れてきたかも」


鞄の中身が散らばった机を見て溜め息をつく。
明日提出するつもりのプリントが、そこには存在しない。

薄っぺらくなったルーズリーフの束を掴んで、買って帰らないとな、と頭の中でメモをする。


「教室ですか？」


「多分」


「ご愁傷さまです」


こちらには目もくれずにノートを埋め続けるテヒョン君。
器用だからか、計算と会話を同時にこなしてみせる。


「取りに行かなきゃ…」


重い腰を上げると、カチッとペン先を仕舞ってケースへ放り込んだテヒョン君が機敏に立ち上がる。

待ってていいよ、なんて労いは効かない。
少し頑固なテヒョン君は、そうすると決めたことは突き通す。



「そのまま帰りますか？」


壁に掛かる時計をチラッと確認したテヒョン君が鞄を掴みながら判断を委ねる。


「そうしよっか」




ゆるゆると図書室を出ると、西日に蒸された廊下が息苦しさを抱えて迎え入れる。
手で首元を仰ぎつつテヒョン君の横顔を盗み見た。


単語帳に目を落とすその端正な凹凸は芸術品のようだ。
改めて見ると、やっぱりものすごくかっこいい。
ずっと前からそうだったのに今更思い知る。


一瞬だけ単語帳から視線を外したテヒョン君とばっちり目が合った。


「どうしたんですか？」


口角を少しだけ上げたテヒョン君が軽快に紙を捲り続ける。


「あ、いや…」


見惚れていた、なんて。


少し前なら冗談交じりで言えたかもしれない。
けれども今はどうだろうか。
見惚れていた、と事実を口にしたら多分何かが変わる。


言葉に詰まって俯いた私を見て、テヒョン君はふっと微笑んだ。
単語帳を捲る手は止まらない。


何も求められていない。そう感じる。
勿論卑屈な感覚ではなくて、心地よさを伴って。


_

〇48__見ない、見ない→←〇46__更新停止なんて嫌ですよ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す