■過去 ページ9
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■過去 - 希望の喪失
ミツリは多々良家の次男であり第三子である。生物学者の姉、陸上アスリートの兄を持つ、少し年の離れた弟である。
ミツリが保育園にいる時から、姉ヒトハは生物学者として名が知られ始めており、兄エイジは陸上部で将来有望な高校生として人気を博していた。2人とも、テレビ番組に登場したことがあるほどの有名人だった。ミツリの周囲の子供たちは皆ミツリを羨み、ミツリを「多々良ヒトハと多々良エイジの弟」としてしか見ていなかった。
母親はミツリと姉兄とをよく比べていた。
「ヒトハはお前と同じ歳の頃から図鑑を強請るような子だったのに」
「エイジは小さい時から沢山運動して遊んでいたのに」
ミツリはずっと室内で絵を描いているような子供だった。毎日毎日、落描き帳にクレヨンを走らせて何かを描いていた。外で遊びたがる子供たちからは「じめじめした変な子」と言われ、母親からは「何もしようとしないだらけた子」と言われた。ミツリはただ、見たものを描き起こすことが楽しかっただけなのに。
満足がいく出来栄えになった絵を母親に持って帰ったが、ほんの少し一瞥されただけで握り潰された。彼女からすれば、何の役にも立たない、目立たない物など興味がなかったのだろう。上二人がなまじ優秀だった分、ミツリにもそれを求めていたのだろう。きっと、ミツリに上二人のような「天才」になって欲しかったのだろう。くしゃくしゃにされた絵を泣きながら必死に広げた。5歳が描くには余りにも写実的なそれを、ミツリは隠すように引き出しにしまった。
どれだけ子供たちに揶揄われようと、どれだけ母親に冷たい眼差しを向けられようと、ミツリは絵を描くのをやめなかった。その理由は父親の存在が大きい。
ミツリの父親は闘病の為に入院していた。長く横になり続けた所為で痩せ細った体で、それでも見舞いに行く度に明るく笑ってくれる優しい人だった。
その父親に、母親が医師と話している隙を見てそれまでに描いた絵を渡すのが、ミツリの見舞いの時の習慣だった。例えば、保育園の隅に咲いたヒナゲシだとか。例えば、雨上がりに二重にかかった虹だとか。
父親はミツリの絵を見る度、自分が行けなくなった外を思い出すという。窓の外と病院の中庭しか知らなくなった父親は、ミツリの絵を通してミツリと景色を共有していた。それが嬉しくて、それだけが自分に出来る親孝行で、ミツリは絵を描き続けた。
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元素(プロフ) - CS提出ありがとうございます……重い……重いよう……つらいよ……なんで……？ 不備等ありませんのでこのまま受理させていただきます！幸せになってくれよ…… 今後も当企画をよろしくお願いいたします！ (2022年6月16日 21時) (
レス) @page14 id: 656d2fa00c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：アカツキ | 作成日時：2022年6月15日 22時
