□死して尚幸せを / 写真家 ページ31
ジョゼフさん、と愛らしい声が私を呼ぶ。振り返れば、こちらに向かって歩いていたAがぽやぽやと華をまき散らしながら頬を緩くした。
「こんにちは、ジョゼフさん」
「こんにちはA。今日は何をしていたの?」
「今日はね、絵本を読んだの。文字ばかりの難しい本もいいけれど、たまに読む絵本も面白かったよ」
長い廊下を彼女をエスコートしながら歩けば一つの部屋に辿り着く。豪華な装飾が施された扉を開ければ、その部屋の中にはすでに紅茶や茶菓子が用意されていて。
少しそわそわしているAの様子からして、今日の茶菓子は彼女が好きなものなのだろう。私の分をあげるのもいいかもしれない。
「絵本の内容、私にも聞かせてくれるかい?」
「うん、うん、勿論いいよ」
まるで忙しい親の気を引くのに成功した子供のような笑みを浮かべながら絵本の内容を語りだすA。私も一度読んだ事のある絵本だったが、彼女の話す様子がどうにも愛おしくて深く聞き入った。
やっぱり身分の違いに関係なく、傍にある幸せには人間誰しも見落とすものなんだなぁって。なんて、砂糖を落とした紅茶を飲みながらぽつりと呟くAに同意する。
「確かにそうだね。私も、何か見落としているかも」
「じゃあ、ジョゼフさんの見落としてしまった幸せは私が届けるよ」
「ふふ、それはいいね。でも心配だな、Aは一つの事に夢中になると他の事を忘れてしまうから」
「ええ、そうかなぁ?」
「うん。私が言うのだから間違いないでしょ。だから、Aの幸せは私が届けるね」
キラ、と彼女の瞳が輝く。この"心底嬉しくて堪らない"という表情が好きだ。
ああ、でも、なんでかな。段々部屋が崩れて、彼女が消えて……―――
「――……お、やっと起きたか。次、ゲームだから準備しといた方がいいぞ」
「……」
眼前に広がったのはピエロのお面で。無い心臓が跳ねる前に冷静に状況を把握する。
そうか、夢か。どうやら椅子に腰かけて眠っていたらしい。
起こしてくれたジョーカーには申し訳ないが、今日ばかりは起こしてほしくなかった。
「何だ、不機嫌だな」
「……青い鳥、の話を知ってるかい?」
「…知ってるが?って、あ、おい!次ゲームだからな!」
聞いておいて、返事が途中の内に腰を上げる。背中に掛けられる声も今の僕には不愉快でしかなかった。
僕のA。愛しい人。
君がいないと僕は幸せになれないのに。
どうしていつも僕だけが残される側なのだろうか。
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yuki maki(プロフ) - Twitterフォロー失礼しまーす (2022年5月1日 17時) (レス) id: 6c4d3fd2ca (このIDを非表示/違反報告)
名無してゃん - 人外シリーズ待ってましたっ!ほんとに楽しみにしてたので嬉しいです(´˘`*)ありがとうございます(´˘`*) (2020年12月23日 18時) (レス) id: 256c8decd9 (このIDを非表示/違反報告)
Lonely(プロフ) - ハルさん» 閲覧、コメントありがとうございます。私の他にも同じ感性(?)性癖(?)の人がいて嬉しいです(´ω`*)尊いとまで言って頂けて…!嬉しみの極みでございます…!こちらこそありがとうございます…! (2020年2月18日 1時) (レス) id: a8cecf9880 (このIDを非表示/違反報告)
ハル - 人外シリーズ好きです。尊いです。有難う御座います。 (2020年2月12日 13時) (レス) id: ca92ab3e55 (このIDを非表示/違反報告)
Lonely(プロフ) - 黒いロシア帽さん» 閲覧、コメントありがとうございます〜。つまり禿げですね(((そう言ってもらえてとっても嬉しいです!ありがとうございます、頑張ります! (2020年2月3日 15時) (レス) id: a8cecf9880 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遊歩 x他1人 | 作成日時:2019年11月17日 22時