Sho.S* WARM EMPEROR -The World of Flower- (ページ9)

今日:8 hit、昨日:26 hit、合計:234,929 hit

暗闇の中じゃ、何も見えない。ページ9

.

そっと目を開ける。

まだぼんやりしている目を何度か瞬かせて、

暗闇の一点に焦点を合わせた。

.

ぎゅ、と握った指先が冷たく冷えていて、

小さく息を吐きながらむくり、と起き上がったら

ああ、何も自分が身に着けていないことに気づいて

床に落ちている服を拾って身に着けた。

.

こちらに背を向けて眠っている彼は、

暗闇の中でも、その白い肌の背中が見える。

ゆっくり上下するそれに、また小さく息を吐いて

音をたてないようにそっと、その部屋から出た。

.

リビングは爛々と明かりがついていて、思わず目を閉じる。

暗闇に慣れた目に、明かりは酷だった。

身体は、正直だ。

.

ずしん、と鈍い痛みを放つ身体を引きずりながら

シャワールームへ向かう。

花を見ながら甘く笑って私の名前を呼んだのは、

ストレスを発散したいからだと分かっていたけど

私は気づかないふりをして笑った。

.

暖かい雫が身体を伝って落ちて行く。

栓を閉めて、瞼を降ろすと私を待っていたのは暗闇の世界で、

ぽたぽた、と髪の先から落ちる水の音が聞こえる。

.

指の先をぎゅ、と数回握って

そこに体温が戻ったことを確認してから

シャワールームから出る。

.

綺麗に畳まれた白いタオルで身体を拭いて、

ぽすん、と頭からそれを被る。

.

一瞬で私が見ている世界が真っ白になって、

良く分からないけど、笑えた。

.

髪の毛を乾かして、ぐるりとリビングを見渡すと、

ワイングラスが2本、机の上で鎮座しているのが見えた。

それを手に取って、いくらか残っていた赤い液体を

迷うことなくシンクに流す。

.

捨てられた赤い液体が、

つう、と流れて、銀色のそこを少しだけ赤く染めた。

.

グラスをきれいに洗って、雫が垂れるそれを

シンク横にある水切に伏せて置く。

.

赤はとっくに失われて、

シンクは元の銀色となって、水をはじく。

.

それを、しばらく見つめた後、

リビングの電気を消して、また寝室に戻った。

.

水を流したら、当たり前のように消える赤。

そこにあるべきものじゃないものは、

一瞬で失くすことができるって、私は知っている。

.

そしてその、"あるべきものじゃないもの"を決めるのは、

私じゃなくて、彼だということも、

私は、知っている。

.