もしもこの世があなただけの世界だとしたら。２ ページ3
.
玄関まで、彼を見送る。
後ろからついて行っても、特に何も言われない。
靴を履くために、鞄を床に置くから、
それを手渡すのが私の小さな役目だ。
.
「、お気をつけて」
「…」
.
返事なんてくれない。
何も言わずに、彼は出ていく。
一緒に住んで、半年が経とうとしているけど、
私たちの関係は、何も変わらない。
.
私はいつだって、彼の下部で、
それ以上の関係じゃないってことくらい、
すぐに分かる。
.
櫻井さんは気まぐれに、私のことを「カノジョ」と呼ぶけど、
それが本音かどうかなんて、表情を見れば分かるし、
私のことを恋人として見てくれる瞬間は皆無だ。
.
私が何も言わずに、隣にいることを、
滑稽だと思って笑ってる。
それに私は気づいているけど、知らないふりをして、
物分かりが良くて都合の良い「カノジョ」を演じてる。
.
パタン、と冷たい音を立てて、玄関の扉が閉まる。
私が手を出さなくても、オートロックのそれは
自動で鍵が掛かった。
.
背を向けて廊下を歩く。
ゴミ一つ落ちていないそこは、
私が掃除したわけじゃなくて、小さな機械がボタン一つで働いてくれた結果だ。
.
彼が買ってきて、それからずっといるそれは、
文句も言わずに良く働く。
元々物が少ない部屋だから、リビングも廊下も寝室も、
黙っていたら全部掃除をしてくれる。
.
住み始めたころは、だだっ広いこの家を、
私が掃除していたのだけど、これが来てからその必要もなくなった。
.
ああ、いらないんだ、と思った。
幾分か楽しそうに、ボタンを入れて小さな機会を動かして、
あちこち掃除してまわるそれを、彼は愛らしいものを見るような目で眺めていて。
.
ああ、私は、いらないんだ。
一生懸命掃除をいていたつもりだったけど、
何か気に食わないことがあったのかもしれない。
私がするべきだと思っていた仕事は、代替がきくもので、
小さな機械に有無を言わさず仕事を奪われて、私の心が傷ついたことなんて、
きっと彼は気づいてないし、知りたいとも思ってない。
.
ここは、彼の世界で、彼だけの世界で、
私は逆らうことは許されない。
.
お前はいらない、と彼が一言いえば、
私はこの世界からすぐに立ち去らなきゃいけない。
.
何も変わらない。
変わる気配もない。
この空間は彼の世界で、彼だけのものだ。
.
太陽を見つけた。→←もしもこの世があなただけの世界だとしたら。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1574人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
Sho.S* WARM EMPEROR 2 -The World of Flower- Sho.S* COLD EMPEROR 2 -The World of Ice- いつも君を見てる２[A]完結もっと見る
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
