嫉妬をして闇に落ちる音を聞く。３ ページ16
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翔さんを下で待たせているので失礼します、と言って
彼女は家から出て行った。
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待たせて、いる？
と言うことは、ここまで彼女を送って、
なのにお遣いを頼んだということ？
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別件で手が離せずやむを得ないので彼女が代理で来たわけではなく、
意図的に、彼女をこの家に入れた、ということ？
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私の目の前で、
立ち入るなと言い聞かせられた部屋に
当たり前のように入っていく女を、見せるために？
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なぜ、自分で取りに来なかったの？
私に会いたくないから？それとも、
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＿"翔さん"
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今度は、あの子が私で、
私は、琴葉さんだって、それを、伝えるために？
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ぱたん、と閉じた扉をじっと見つめて、
溶かされた思考でぐるぐるとそんなことを考えた。
ああ、捨てられるのか、と思った後、
自分があの綺麗な彼女に嫉妬しているのかと気づいて、
ずぼん、と闇の中に落ちて行くことに手が震える。
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だから、好きになんてなりたくなかったんだ。
返ってくるものは、苦痛な感情でしかないのに、
それを、分かっているのに。
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いつか、近いうちに捨てられると分かっていて、
怯えながら恋をして、
だけど私は、それを彼に悟られてはいけない。
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櫻井さん、と呼ぶわたし。
翔さん、と呼ぶ彼女。
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それを良しとしている時点で、
私が彼女よりどれだけ劣っているのか、分かってしまうのに、
私には、翔さん、と呼ぶ勇気なんかなくて、
"精々にこにこしてろ"なんて、呪いみたいな言葉に縛られて、笑う。
*
笑って、何も言わない私に、
櫻井さんが、ぴくりと眉を動かした。
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「いい子にしてたか、」
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いい子、ってなに？
私はいつだって、あなたに逆らわない"いい子"でしょう？
と言いたかったけれど、言えるはずがない。
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はい、と静かに返事をしたら、
凛に会っただろ、と言われた。
凛、と言うのか、とそこで初めて私は彼女の名前を知る。
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「はい、ちゃんと書類を持っていきましたよ」
「そんなの知ってる」
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じゃあ、何を言えって言うの。
釣り合わない、と言われたなんて、そんなの自分が良く知っていることを
私は言いたくない。
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「…ちゃんと、にこにこしておきました」
「、そうか」
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ふ、と彼が息を吐いて
風呂に入って来る、と私に背を向ける。
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いつ捨てられるんだろうと考えながら、
軋む胸の音を、聞かないふりをして目を閉じた。
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あなたに求められている私。→←嫉妬をして闇に落ちる音を聞く。２
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