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いやでも、これは僥倖。どちらにせよ涙が引っ込んだのはラッキーだった。
「痛ッ」でギャン泣きの気持ちは、私も重々承知しとります。
そこで、先程の母親らしき女性がおずおずと寄ってきた。言葉が通じないのが分かっているのか、視線を忙しなく行き来させている。
『……ほら』
私は果実を持たせ、少女の背中を押しやった。
私から何か話しかけるのも、きっと余計なことになる。
安堵の表情を浮かべた女性は、控えめに笑ってお辞儀をしてくれた。それだけで嬉しかった。
「……大丈夫かい？ 服が汚れてしまったようだが」
だからそこで突っ込んでくるんじゃねぇよって言ってんだこっちはよ。
いつから見ていたのか、殿下が声をかけてくる。
きっと私の心の内が晒されることがあるとしたら、明日には打ち首だろうな。
『いえ、ご心配には及びません。替えの衣服はございますので』
「そうか。しかし……君は随分、子供の扱いに慣れているようだね」
――まずい。
『……殿下、お話を中断させてしまいましたこと謝罪申し上げます。どうか寛大にお見逃しを』
いくらイケメンでも、でかすぎる権威は脅威以外の何物でもないよなぁ。
この青年のたった一言で、何か大きなことが変わってしまう可能性があるのだから。
深く下げた頭に、殿下の溜め息が落とされた。
「……僕は、子供相手にも憤るような男に見えているのかな」
ひゅう、喉が鳴った。やばい、ミスったか。
震える両手を握りしめたが、しかしそれは、私に向けた言葉ではなかったようで。
「……。まぁ、何を考えていらっしゃるか、分からないという意味で言えば」
答えたのは、殿下の護衛騎士である壮年の男だった。
低く貫禄のある声音で、吐き出したのは殿下を揶揄うような内容だ。
ぎょっとしてそちらを窺うと、殿下は「ええ？ そうかい？」とカラカラと笑っている。
『(あー……セーフ)』
――私、王族の前ではもう二度と、出しゃばらないことに今決めました。
大袈裟なくらい胸を撫で下ろしていると、グルッペンさんとばちりと目が合う。
彼は薄く笑みを湛えたまま、目礼してきた。私も小さく礼をして返す。
その後、何事もなかったかのようにツアーは再開された。
ここに来てからこの短時間で、一体どれだけ私の精神は擦り減っただろうか。
密かに吐いた溜め息は、村の綺麗な空気が包んでいって連れ去った。
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感情末期 - コメント失礼しますー!巡回いってきます!!大好きです!!いってきます! (2021年10月5日 22時) (
レス) id: c7b86b77aa (このIDを非表示/違反報告)
江之子(プロフ) - 蓮さん» コメントありがとうございます。頑張って組み込んだコメディ部分、ウケたようで嬉しいです(笑) 応援ありがとうございます。 (2020年5月21日 2時) (レス) id: f8221d30c6 (このIDを非表示/違反報告)
蓮 - コメント失礼します！ふにんきのところ笑っいました。更新頑張ってください！応援してます！ (2020年5月21日 0時) (レス) id: a5a3967b27 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(プロフ) - 櫻華さん» コメントありがとうございます。これからもご満足いただける作品になるよう頑張ります！このご時世なので、櫻華さんも重々ご自愛くださいね。 (2020年5月20日 22時) (レス) id: f8221d30c6 (このIDを非表示/違反報告)
櫻華(プロフ) - 初コメ失礼します！リアリティのあるお話で、とてもハマりました！お身体に気をつけて、これからも更新頑張ってください！ (2020年5月20日 16時) (レス) id: e0d01a51ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：江之子
| 作成日時：2020年4月24日 1時
