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「んー……」
『ロボロさん？』
呼びかけて、はっと口を押さえる。いけない、またさん付けを。
しかし今までそれを咎めては笑っていた彼が、今回は気にも留めず、どこか見当違いな方向へと視線を飛ばしていた。
何だろう、と窺っていたのも束の間、ロボロはこちらを向いて楽しそうに笑ってみせた。
「な、ちょっと走ろか！」
『え――』
反論する時間どころか、驚きの声を上げる隙すら与えられず、繋がれた手がぐい、と力強く引っ張られる。
どこに行くのかも言わないで、ロボロはただAの手を引いて走り出した。
これもまた、ちょっとした彼の遊び心だろうか。
最初こそそんな具合に苦笑いを零していたAだったが、やがてそうではないんじゃないか、と眉をひそめる。
彼が選ぶ道は、建物の間の狭い路地とか、曲がり角の多い入り組んだ団地の中とか、少々疑問の残る場所だった。
一体どこを目指しているのだろう。走り出してから一度もこちらを振り返らないことが、また不安を煽る。
やがて、どこかも分からない路地裏のつきあたりで、ロボロはようやく足を止めた。
『……ロボロさん？ どうかしたんですか？』
「……。んふふ、何でもないよ」
やっと振り返ってくれたと思ったら、繋いでいない方の手で器用に布の結び目を解いて、ロボロはAを引き寄せた。
抱き寄せられて、彼の肩に顎が乗る。ロボロは背が低いのを気にするけれど、抱き締められたときに互いの顔がすぐ隣にある状態が、Aは一等好きだった。
「ちょっと、こうしたくなって」
『ロボロさん、でも何もこんな所で――』
「敬語」
『う……』
思わず口ごもれば、耳のすぐ傍で柔らかく笑う声が聞こえた。
ふと身体が離されて、彼の顔が見えてくる。この上なく優しく笑うロボロは、Aの額に、前髪の上からそっと口付けた。
『……』
「何でもあらへんよ。やから、そんな心配そうな顔せんとって」
『……うん』
それは無理なお願いだと、Aは密かに思った。
だって自分だって恋愛沙汰に慣れている訳ではない。打ち明けてしまえば貴方が初めての恋人で、何もかもが手探りで。
どんな小さなことでも嬉しくなって、どんな些細な綻びでも不安に感じてしまう。
『……好き、好きです』
「うん、俺も」
――だけど貴方がそう言うなら、今はただ、頷きましょう。
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江之子(プロフ) - みかんさん» コメントありがとうございます。頑張ります！これからもお楽しみください。 (2020年7月13日 16時) (
レス) id: f8221d30c6 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(プロフ) - 藻塩。さん» コメントありがとうございます。気に入ってもらえる展開でしたか！作者も好きです、書くときちょっと辛くなりましたが…(笑) (2020年7月13日 16時) (レス) id: f8221d30c6 (このIDを非表示/違反報告)
みかん - コメント失礼致します。とても面白く読ませて頂いています。これからも更新頑張って下さい。 (2020年7月12日 19時) (レス) id: 8cc228e6cc (このIDを非表示/違反報告)
藻塩。(プロフ) - 江之子さん» コメ失礼します、すんごく展開が好きです…！これからも無理しないように頑張ってください！ (2020年7月12日 14時) (レス) id: 7b5f2afcc4 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(プロフ) - 菜の葉さん» コメントありがとうございます。登場人物たちに感情移入してもらえるとは、この上ない褒め言葉です…！頑張ります。 (2020年7月11日 0時) (レス) id: f8221d30c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：江之子
| 作成日時：2020年4月20日 23時
