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『おいでショッピ君。もっと近くで見ててもいいよ』
「あ、はい、どうもっす」
椅子に腰かけたAの、ちょうど斜め後ろに立って手元を見下ろす。ふう、と息を吐いたAの目の前には、様々な器具が並んでいた。
やがて気分を出来る限り落ち着かせ、よし、と人知れず呟いたAは、再びザロへと視線を寄越した。
『いくよぉ、おじさん』
それにちらりと、やはり視線だけで返したザロ。
始まる。言いようのない緊張感でぐっと拳を握ったショッピだったが、次の瞬間。
『――あっ、待ってごめん、忘れてた』
「っ、なんやねん！」
『ふへへー、ごめんごめん』
Aの間の抜けた声に、ゾムもショッピも肩透かしを食らう。
一体何だ、と胡乱げな表情のショッピを、くるりと大きな瞳が振り仰いだ。
『あのねショッピ君。私、作業しながら説明、なんて器用なことまでは出来ないから、見て覚えてね』
「……あ、はい」
『ねぇ肩に力入りすぎだよー。リラックスリラックスー』
そんな一世一代の大勝負ってわけじゃないんだからさぁ。
何てことないように笑うAに、悔しいが、変に力の入っていた身体を自覚したのは事実だった。
と、その一方。
ゾムはふと、自分の背中を軽く押される感覚に振り向く。そんなことが出来るほど近くに居るのは一人しかないが、ゾムは驚いた。
「……？」
ザロはただ、自分の手元でどろどろに溶かされている鉄を指差すだけだ。
何や、と尋ねようとしたところで、これまた驚くことに先にあちらが口を開いた。
「……溶かすだけ」
「お、おん」
次に、Aを指し示す。
「……見たほうが、いい」
「……。あぁ」
なるほど。つまり、自分は今鉄を溶かしているだけだから、見るならAを見たほうがいい、と。
いや何か。もしや作業に邪魔だから、体よく追っ払われたのか。わざわざ苦手な言葉まで発して？
とゾムが邪推したところで、すぐにそうではないということが分かった。
ただ彼が、純粋に、彼女を見ておいたほうがいいと、そう宣った理由が。
『じゃあ今度こそ――始め』
彼女の軽い掛け声が上がったその瞬間、部屋の雰囲気が変わった。
息を呑む二人が最初に見たのは、Aの両の手から溢れ出す、何色にもきらめいた光だった。
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作者名：江之子
| 作成日時：2020年3月25日 23時
