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『ん？ なぁに？』
「二人に、あげる！」
はたして彼女の右手に握られていたのは、二輪の青い花だった。
『これ……イリウスの花だ。すごい、よく見つけたね』
「イリウスの花？」
『見た目も綺麗なんですけど、薬の材料としても重宝される花で。結構珍しいんですよ』
「へぇー……初めて見たわ」
渡されるまま、じろじろとイリウスの花を観察するロボロ。
"天満の泉"で見つけたの、とAが問うと、ルーナは頬を染めてこくりと頷いた。
『普通なら、南にある"ウロの洞窟"で採れるんですけど。"天満の泉"にも咲いてるのは知らなかったなぁ。これ、私たちが貰ってもいいの？』
「A先生、わたしたちのせいで怪我、しちゃったから。ロボロ先生、A先生守ってくれたから」
『……！』
軽い気持ちで受け取った自分に、はっとする。
きっと子供は思ったより大人で、そして大人がもたないような感情を、何の疑いもなくもっているのだ。
『……ありがとう。すごく、嬉しい』
「ありがとうなぁ」
そうしてルーナは、ばいばい、と控えめに手を振って、今度こそ背を向けて行ってしまった。
「……。改めて思うんですけど、子供って強いっすよね」
『ふふ……はい。私なんかまだまだだって思っちゃいましたよ』
Aの言葉に、ロボロもおどけたように、俺も、と笑った。
この綺麗な青い花は、窓辺の陽が差す場所に飾って、それから押し花にしよう。
先程までのしぼんだ気持ちが、ゆるりと溶かされていくような、そんな心地だった。
「ところでAさん」
『はい？』
「《ヒール》の魔石は、もう持ってないようですが」
『え？ あぁ、でも、家に帰ればいくらでも――』
「うちに《ヒール》の適性もったやつ、居るんですよね。ちょっと……いや、かなーり変な奴なんですけど」
『はぁ』
「うちのホーム、来ません？」
『――え？』
どうやら、今日はまだ終わらない。
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作者名：江之子
| 作成日時：2020年3月25日 23時
