手袋−7 ページ44
<Yuzuru Side>
「それじゃ、ゆづも綾瀬さんもまたね」
「はい、ありがとうございました」
駐車場で奈々美先生に別れを告げて、二人で車に乗り込む。
「先生となにを話していたの?」
ずいぶん話し込んでいるように見えた。
「え?」
「俺のこと?」
「……ううん、違うよ」
横目で見ると、Aは前髪を指でいじっている。わかりやすい。
「へー、じゃ、なんの話?」
「……世間話だよ」
「例えば?」
「た、例えば? ……えっとー、最近お天気いいですね、とか……」
プッ! いくらなんでも、嘘下手すぎ! 小学生でももっとマシな誤魔化し方するぞ。
思わず吹き出しそうになるのを、なんとか耐える。
まあ、Aらしいっちゃ、らしいけど。
奈々美先生がAになにを話したのかは、察しがつく。
というより、それが狙いってところもあって。
俺を熟知している奈々美先生のことだから、俺がAを紹介する意図を汲んでくれるはず。
Aの不安を少しでも解消し、俺を信じて欲しい。
それには、俺をよく知る人物から俺がAに対して本気だということをそれとなく伝えてもらうのが手っ取り早いと考えた。
ウインザー効果ってやつ。
姑息な手段なのは、重々承知。
俺らしくない、卑怯、なんとでも言ってくれ。
助手席のシートに深く体を沈ませたAは、さっきから目をしばたかせてあくびを噛み殺している。
そんな仕草さえ、愛しい。
今すぐ、抱きしめたい。
はー、限界。
いつまでも自分の気持ちを中途半端に隠していることにフラストレーションが溜まるし、Aを幸せにしたいのに今の状態じゃそれも叶わない。
それに……ちょっと、焦ってる。
来週からアイスショーや諸々の用事で日本を離れることが多くなるから。
十年という月日と比較すれば、たいした時間じゃないけどAと会えないのは不安だった。
そう、俺だって不安なんだ。
お互いの気持ちをわかり合っていたって、ちゃんと言葉で示して欲しい。
Aが俺を好きだという確証が欲しい。
Aに触れて、抱きしめることができる権利が欲しい。
女々しいけど、正直な感情だ。
「練習後なのに、送ってくれてありがとう。ゆっくり休んでね」
Aの家の前の通りに車を停めると、Aはそう言って車から降りようとした。
「待って、A」
「なあに?」
呼び止めた俺を振り返ったAの瞳を見て、俺は決意を固めた。
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エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、コメントありがとうございます。しばらくじれったい状態を続ける予定です(笑) 罪悪感と妄想の狭間で悩みますが、結局妄想には勝てない。心の中で羽生さんに謝りながら書いています(^_^;) (2022年1月12日 22時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - ちなみに、罪悪感は、私の場合三日くらい経ったら消えます(笑)最初はすごくあったけど、結局妄想は止まらない感じ…。申訳ないですよね、ほんと。 (2022年1月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - くっつきそうでくっつかない(笑)じれったい二人をまだまだ見ていたいです^^毎日楽しみにしています!ぜひぜひ羽生さんに幸せをあげてください! (2022年1月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エミル | 作成日時:2021年12月18日 20時