＊ ページ16
「お疲れさま」
ドアを開けてくれた結弦さんはそう言うと、くるりと背を向けた。
アイスショーで一緒になったときは、夜になると結弦さんの部屋に行くのが当たり前になっていたから、今日もいつも通りに来たけど……昨日、喧嘩しちゃったし、来るべきじゃなかったのかな。
シャワーを浴びたばかりなのか、濡れた前髪を上げているせいで、結弦さんの表情がいつもよりよく見えて。どことなく倦怠感をまとわせている様子に、私は来たことを後悔した。
「どうしたの？ そんなとこ突っ立ってないで入れば？」
「え、あ、うん」
今さら帰るとも言えず、私はベッドに腰かけた。
部屋の広さもベッドの大きさも調度類も、私の泊まっている部屋とは段違いにグレードが良い。
そんなこと一つ取っても、彼と私の立場を表しているみたいで虚しくなる。
どうして、私なんかと付き合っているの……？
明日の着替えを用意している結弦さんの背中に心の中で問いかけてみる。
声に出して聞く勇気はなかった。
もう少しだけ、彼女でいたい。
夢を見ていたい。
「水、飲む？」
「うん、ありがとう」
結弦さんはペットボトルの蓋を開けてから、私に手渡してくれる。
気遣いができて、紳士。
それは私が彼女だからじゃなくて、誰にだってそう。
「……A」
隣りに座った結弦さんは私の手からペットボトルを取り上げると、顔を傾けて唇を重ねてきた。
こちらの反応を見ながら深まっていくキス。
結弦さんが普段使用しているシャンプーよりも甘めの香りがした。
「……なんか、心ここにあらずって感じだね」
仄暗い部屋のベッドの上、私の顔の両脇に腕をついた結弦さんから指摘されて、私は息をつめた。
細身だけど鍛えられた体、綺麗で繊細な指先。
いつもの私なら肌を合わせるだけで、疼くように体の芯が熱くなって、彼から与えられる熱に翻弄される。すべての思考を攫われてしまう。
だけど、今夜はどうしても没頭することができなかった。
結弦さんは私をどう思っているの？ ―――こびりついた疑問が頭から離れない。
結弦さんは人の機微に鋭い。
でも、気づいて欲しいのは、愛撫に感じたふりをする私の演技じゃなくて、結弦さんの心が掴めず不安で揺れている私の心ほうなんだけどな。
「昨日の喧嘩、まだ怒ってんの？」
結弦さんの言葉に首を振った私は、上半身を起こしてシーツを胸元まで引き上げた。
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エミル(プロフ) - くっきーさん» 短編、楽しみにしてもらえて嬉しいです！GIFT、想像をはるかに超えたショーでした。ハマりすぎて更新が滞っていますが、しばしお待ちくださいね。 (2023年3月2日 21時) (
レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
くっきー(プロフ) - やっぱりエミルさんの短編すごく素敵です！泣GIFT大成功でしたね！！これからの展開楽しみです、、 (2023年3月2日 1時) (レス) id: 95130b7885 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 璃子さん» 似通った話になりがちなので、新鮮と言ってもらえて嬉しいです(*´ω｀*)ファン目線だと羽生さんのそばにいられるだけで幸せ。でも、実際に彼女になる方は大変だし我慢することも多いんだろうなって想像します。本当に幸せになって欲しいと私も思います。 (2022年4月10日 21時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
璃子(プロフ) - なんだか新鮮なお話でした。楽しく読ませて頂きました。実際お付き合いするとなったら…やはり今回の羽生さんのようにお相手を気遣って「俺といて楽しい？」とか気にしそうですよね。何にせよ幸せになって頂きたい方です。 (2022年4月10日 9時) (レス) @page23 id: a68a41f56a (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、ほっこりしていただき、ありがとうございます(*^-^*)長編がアレなので、素直な二人にしました。幸せな羽生さん、増やしたい！会見は、羽生さんらしい世界観でした。 (2022年2月14日 21時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：エミル | 作成日時：2022年2月12日 22時
