仮面−2 ページ36
<Yuzuru Side>
「あ、うん。行ってらっしゃい」
と、答えて。俺は、次の瞬間、衝動的に玄関へ向かっていた。
「待って、A。―――俺も行く」
「え?」
しゃがんでスニーカーを履いていたAが、瞳を瞠って俺を見上げた。
「行くって……フットサルに?」
「うん、見学できる?」
「……、……それは、できるけど……。結弦くんがコートに現れたら、大騒ぎになっちゃうよ」
立ち上がったAは困惑した表情をしている。
「あそこのフットサルコートって屋根はあるけどオープンになってて、駐車場からでも見れるよね? 俺、車の中から見てる」
後部座席ならスモークフィルムを貼ってあるし、俺だとバレることはないだろう。
「……結弦くん、フットサルに興味があるの?」
「いや、フットサルっていうより……」
Aに興味があるから。―――口にしかけて、あまりに意味深な理由だと、言い淀む。
「結弦くん?」
「え、ああ。今夜の練習はオフだし、たまには違う競技を見るのもいいかなって、演技の参考になるかもしれないし」
「競技たって趣味の範囲だよ」
適当にこじつけた理由に、Aはますます不審な顔つきになるけど、
「いいの、気晴らし」
俺は笑って押し通した。
あぶねー。
“興味がある”イコール“恋愛感情”ではないけど、一歩間違えると、勘違いされてもおかしくないとこだった。
隣りでハンドルを握るAを横目で盗み見る。
フットサルをする彼女が自分の中で想像できない、だから見てみたい。それに、けがをしないかも心配だ。本当にそれだけ。
目的地に向かって、ぐんとスピードが上がる。彼女の運転は、その性格と同じ、慎重で丁寧で安心できた。
ちょうどコートが見渡せる位置に運よく駐車スペースが空いていた。
リュックサックを背負ったAを後部座席から見送り、グリーンが目に染みるフットサルコートへ視線を向ける。
スケート以外のスポーツだと野球が好きだけど、引退したらフットサルをやってみるのもいいかもしれないな。これまで出来なかったことにいろいろとチャレンジしたい。スポーツも趣味も、車の運転も。
ぼんやりとそんな物思いに耽っていたら、コートにAが出てきた。
Aは、ビビットなピンクのプラクティスシャツとパンツにロングスパッツ、よく女子サッカー選手がしている細いヘアバンドを身に着けている。
結構本格的な恰好だな。
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エミル(プロフ) - MERさん» MERさん、ご指摘ありがとうございます。気を付けます (2021年7月14日 23時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
MER - 所々美百合さんになってますよ (2021年7月14日 22時) (レス) id: 39acd1ff39 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、初めまして。コメントありがとうございます。わくわくするって感想、とても嬉しいです♪羽生さん、大人っぽいですかね?今後も楽しんでいただけるよう頑張ります! (2021年7月12日 20時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - はじめまして!斬新な設定にわくわくしています^^ここの羽生さんはとても大人っぽいですね。大人な羽生さん大好きなので、嬉しいです!更新頑張ってください! (2021年7月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エミル | 作成日時:2021年7月10日 18時