契約−６ ページ25
「それより、お昼ご飯はお蕎麦でいい？」
「引っ越し蕎麦だね、いいよ」
使い勝手のいい対面式のキッチンは最新の設備で、料理好きな私にとっては嬉しい限り。お鍋に水を入れて、IHヒーターにかけていると、
「A」
耳元で、低く柔らかな声が響いた。
「ひゃっ。なに、急に」
「いや、手伝うことないかなと思って」
にこにこと笑っている結弦くんの顔がすぐ上にある。
「だ、大丈夫。座って休んでて」
音もなく、背後に立つとかやめて欲しい……。
結弦くんの声は、反則だよね。
特に名前を呼ぶときは、優しくて丸い声をするから、本当に心臓に悪い。
やっぱり、私の名前の呼ぶ捨ても許可しなければよかった。
結弦くんには言えなかったけど、彼を呼び捨てにしないのにはちゃんと理由がある。
私と結弦くんは、恋人でも、友達でもないから。お互いの利害の一致によって、成り立っている関係。それを忘れないため、一線を引く必要があった。
そのあたりは、結弦くんのほうが厳しいんじゃないかって思っていたけど……。
動画とか観ると、女子選手の頭を撫でたり、距離が近い。佳菜子とも抱き合ってる写真があったし。仲間のような感覚でいる選手同士なら普通のことでも、同じようにされたら私は困るから。
ある程度ビジネスライクな距離を保たないと、この同棲は失敗する気がする……。
「これ、Aのぶん」
お蕎麦を食べ終わって、テーブルを布巾で拭いていると、結弦くんが手をグーにして突き出してきた。
なに？ と、結弦くんの顔を見上げたら、黙ったまま手を開く。
手のひらの上に乗っているのは、私のイニシャルの周りにプーさんとピグレットがあしらわれたキーホルダーとこのマンションの鍵だった。
「こっちは俺のね」
もう片方の手で摘まみ上げているのは、Yのイニシャルのキーホルダー。
「姉ちゃんが同棲の記念に俺たちにって」
「お姉さんが？」
お揃いなのがちょっとくすぐったいけど、可愛い。あとでLINEでお礼しておこう。
「引っ越しも無事に終わったし、今日からよろしく」
スッと差し出された手。
細くて長い綺麗な指だけど、甲に血管が浮いているのが男性らしいその手に私は自分の手を重ねて握る。
「うん、これで契約成立ってことだよね。よろしくお願いします」
そう、これは契約。
結弦くんはお姉さんのため、私は生活のため。いつかお互いを必要としなくなるときまでを期限とした契約。
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エミル(プロフ) - MERさん» MERさん、ご指摘ありがとうございます。気を付けます (2021年7月14日 23時) (
レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
MER - 所々美百合さんになってますよ (2021年7月14日 22時) (レス) id: 39acd1ff39 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、初めまして。コメントありがとうございます。わくわくするって感想、とても嬉しいです♪羽生さん、大人っぽいですかね？今後も楽しんでいただけるよう頑張ります！ (2021年7月12日 20時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - はじめまして！斬新な設定にわくわくしています＾＾ここの羽生さんはとても大人っぽいですね。大人な羽生さん大好きなので、嬉しいです！更新頑張ってください！ (2021年7月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：エミル | 作成日時：2021年7月10日 18時
