ギャップ−6 ページ16
<Yuzuru Side>
Aさんと二回目に会う日は、あっという間にやってきた。
あいにくの雨で、湿気が肌にまとわりつく。ただでさえも汗っかきの俺は、美百合さんが宿泊するホテルの部屋に着いたときは額から汗が流れていた。
「こんにちは」
出迎えてくれたAさんは、涼し気なノースリーブのニットにデニム姿で、少女のように見えた。
部屋へ入ると、備え付けの冷蔵庫から緑茶のペットボトルを出して、グラスに注ぎ、「どうぞ」と手渡してくれる。冷えた緑茶が喉をとおり、一息つく。
ほとんど毎日電話で話していたせいか、久しぶりという気がしない。
彼女の態度も最初に会ったときより緊張がとれて、気を許してくれているように思えた。
狭いシングルルームで、一つしかない椅子を俺に勧めると、Aさんはベッドのふちに腰かける。
「あのさ、……それ、どしたの?」
話を切り出そうとして、Aさんの腕にある青痣に目を留める。
「え、ああ、これ? フットサルで相手と接触して」
と、もう片方の手で痣を撫でて、なんでもないように美百合さんは言う。
フィギュアスケートをしていれば、痣なんて日常茶飯事。それは、女子選手だって同じ。
けれど、Aさんの細くて白い肌につけられた痣は痛々しくて、もっと自分を大切にして欲しいと、ほんの少し苛立ってしまった。
「大学のサークルだったっけ? Aさんがフットサルって、すごく意外性があるんだけど。きっかけはなに?」
「あー、大学の頃に付き合っていた彼が立ちあげたサークルだったの」
………今、ものすごく聞き捨てならない単語が出てきた気がする。
「へぇ」
そりゃ二十六歳の大人で、それなりに可愛ければ過去に彼氏の一人二人いたって、当たり前だけど。あまり聞きたくなかった。
「まさかこの前フットサルしていた仲間の中に元彼がいるとか?」
「ううん、いないよ」
彼女の返事に、だったらいいや、と安堵して。すぐに、その発想がおかしいと眉間に皺を寄せる。元彼が彼女の近くにいようといまいと、俺には無関係のはずだ。
「あ、そうだ。お昼ご飯にしない?」
俺の戸惑いなんて構いもせず、Aさんは立ち上がる。
昨日、Aさんからお昼にお弁当を作っていくと連絡を受けていた。作ったものを一度も食べてもらわずに、食事の管理を任せられるのは抵抗があるらしい。
律儀だな、べつにいいのに。
でも、その真面目な考え方、嫌いじゃない。
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エミル(プロフ) - MERさん» MERさん、ご指摘ありがとうございます。気を付けます (2021年7月14日 23時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
MER - 所々美百合さんになってますよ (2021年7月14日 22時) (レス) id: 39acd1ff39 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、初めまして。コメントありがとうございます。わくわくするって感想、とても嬉しいです♪羽生さん、大人っぽいですかね?今後も楽しんでいただけるよう頑張ります! (2021年7月12日 20時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - はじめまして!斬新な設定にわくわくしています^^ここの羽生さんはとても大人っぽいですね。大人な羽生さん大好きなので、嬉しいです!更新頑張ってください! (2021年7月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エミル | 作成日時:2021年7月10日 18時