【文スト】貴方といられる幸せを【中原中也】

待っていて ページ5

それから長い年月が過ぎ、私も年を取りました。
少し歩いても疲れます。
でも中也のお迎えはしなきゃいけないですからね。
そろそろ帰ってくる時間かと思い、玄関で座って待ちます。
少し寒いですけど、中也が帰ってくるまでならいくらでも待てますから大丈夫。

でも、いつまで経っても玄関は開きません。
もう朝陽が昇り、部屋に日差しが差し込みます。
でも、食事は一日分しか置かれていません。
今日は、帰ってきますよね。


それから四度朝と夜が繰り返されました。
もう我慢できません。何かあったんだわ。
中也を迎えに行きます。
水もごはんもろくに取っておらず、弱った足で一歩踏み出します。
中也の職場なら、一度行った事があるので、大丈夫。
中也、待っていて下さい。


窓から地面へ飛び降りると、弱った足では耐えられず、転んでしまいました。
身体中に鈍い痛みが走ります。
でも、迎えに行かなくちゃ。
よろけながら立ち上がり、見覚えのある道をひたすら歩いて行きます。
私が出せる、最大のスピードで。
といっても、子猫の歩みより遅く、一歩、また一歩と踏み出していくばかりです。
でも、優しいあの笑顔に包まれるなら、こんな痛み苦しみなんて気になりません。
お願い、待っていて…


そして、中也と出会った大通りへと抜けました。
幸せそうな人。笑顔。笑い声。
そのどれも、中也が与えてくれた。
ここで出会った事、私はずっと忘れていませんよ。
思い出を噛み締めながら、少しずつ人の少なくなっていく道へと進みます。
もう少し、もう少し、耐えて…。

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