置き土産 ページ8
.
「落ち着いて！ 落ち着いて下さい、先生！」
「止めないでくれAちゃん！ あのすかした顔に、拳を一発！！」
「だから誤解なんですってー！！」
前略、天国にいる私の家族へ。
一人で生きると覚悟を決めたばかりだけど、ちょっとお姉ちゃん、心が折れそうです。
＊＊＊
──ことの始まりは、半々羽織の彼の去り際まで遡る。
「先程渡した藤の花の匂い袋は肌身離さず持っていろ」
「はい、ありがとうございます」
鬼の弱点と生態。それだけ伝えると、彼は次の任務があるからと言って立ち去ってしまった。
風に煽られた羽織りから覗く彼の腰元には、とうに法で廃止された筈の日本刀。私は改めて、彼が“日常”の外側に居る存在なんだと理解した。
「……本当に、ありがとうございました」
遠ざかる背中に向けて、私は手の中にある花柄の匂い袋をぎゅっと握りしめ、頭を下げた。
長々と彼を引き止める訳にもいかなくて、結局、この感謝の気持ちを伝えることもままならなかった。もう二度と会うこともないだろう。彼の名前も知らないままだ。でも、それでいい。
カランと。耳飾りが揺れる。
(うん。そうだね、炭治郎)
優しい人だった。偶々通り掛かった、それだけで、こうして町まで下りてきて、炭治郎の言葉を届けてくれた。
鬼を斬る刀を携えたまま。人殺しだと、警吏に通報される危険を冒してまで。
そんな彼に、炭治郎の最期を。家族の最期を。看取ってもらえて、良かった。
「…………っ、」
涙が滲むのを、気合いで耐える。まだ、やることが残っているのだ。
「ただいま、Aちゃん。途中であの男前くんとすれ違ったけれど、っ？！」
「あ、おかえりなさい。先生」
先ずは、先生に事の次第を話して。それから、山の家まで行こう。ちゃんとした墓を作って、形見も探さなければ。泣いてる場合ではないのだ。
「突然ですが、頼みたいことが──」
「あ、のっ、クソ男、」
「え？」
と、そのことで頭が一杯になっていた私は気付けなかった。
「──ちょっと顔が良いからってウチのAちゃんを泣かせやがって、許せん！！！」
「え！？」
「天誅！！」
「え、ちょ、誤解です！ 先生、誤解ですー！」
──まさか、私の目元の腫れを勘違いした先生が激怒して暴れ狂い、その勘違いが町の人たちにも伝染して、町を出る直前だった彼に多大な迷惑をかけてしまうことになるなんて。
……私は、思ってもみなかったのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 322人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ドジ猫(プロフ) - 絵宙(えそら)さん» 一応、炭治郎の髪ってことで炭治郎本人は数に入れてないです！ わかりにくくてすみません！汗 (2020年3月30日 6時) (
レス) id: a192f6ddb7 (このIDを非表示/違反報告)
絵宙(えそら) - ページ5の「込められた想い」では、弟の数は、茂、六太、竹雄、炭治郎(漢字が違うかもしれません)で、四人だと思います。細かくてすいません。これからも頑張ってください！楽しく読ませていただいてます！ (2020年3月30日 3時) (レス) id: 63faa5bcfc (このIDを非表示/違反報告)
由亜(プロフ) - とっても面白いですね!一気に読んじゃいました。寝転びながら読んでたんで、シーツの一部分になみだのしみが・・・(泣きました)これからlet's続編で御座います!面白い小説を有難う御座いました (2020年2月24日 4時) (レス) id: d2128f7714 (このIDを非表示/違反報告)
タートル(プロフ) - 失礼致します！面白くて一気に読んでしまいました！私も鬼滅のお話を書いているので良かったらお越しください。 (2020年2月19日 20時) (レス) id: 77bb05bd52 (このIDを非表示/違反報告)
ドジ猫(プロフ) - なるは。さん» ありがとうございます！嬉しすぎて顔がにやける……！これからもよろしくお願いします！！ (2020年2月16日 22時) (レス) id: a192f6ddb7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ドジ猫 | 作成日時：2019年12月19日 0時
