誰が為に ページ30
.
「“優しい”、ですか……?」
紡がれた単語の意味をよく理解出来ないまま、私は首を傾げた。
「……私、今まで、鬼を憐んだりするのは姉さんだけだって思ってたの」
ポツリ、ポツリと。夜風に紛れて、彼女の囁きが宙に溶ける。
「鬼殺隊に居るのは、家族や友人、大切な人を鬼に奪われた人ばかりよ。だから皆、鬼を憎んでる。
……てっきり、貴女もこちら側だと思ったのに」
拗ねたような最後の一言に、私は乾いた笑いを漏らした。確かにそうだ。そもそもの話、胸の内に抱えるこの負の感情を受け入れられていたのなら、私は彼女たちに関わるという選択肢は取らなかっただろう。
鬼が憎い、恨めしい。
それと同時に、憐れだとも思う。
人を殺した奥さまたちを許せないと思うのに、生まれてすぐに鬼にされた稚児を可哀想だと、我が子の命を守ろうとした奥さまの覚悟を尊いものだと思う。
それはきっと──…………
「……私が、お姉ちゃんだからですかね」
カラン、と。微かに耳飾りが揺れる音がした。
***
『お姉ちゃん!』
大好きな家族がいた。
『Aちゃん!』
大切な家族ができた。
だから、だろうか。
──憎くても、恨めしくても。それでも慈悲の心を忘れずに。
──辛くても、苦しくても。それでも前を向いて生きていく。
そう、決めたんだ。
「約束が、あるんです。何より叶えたい約束が。
だから、憎しみがない訳じゃないですけど、それだけに囚われるつもりもないんですよ」
そっと耳飾りに触れながら告げれば、しのぶさんは顔を背ける。
「……随分と抽象的ね。そして曖昧だわ」
……怒ってしまったのかと思ったけど、そうではないらしい。
その口元が微かに緩んでいるのが見えて、私も柔らかく微笑んだ。
「ご理解頂けたでしょうか?」
「ええ、理解したわ。……そうよね。私は、復讐のためだけに生きてるのではないんだわ」
伏せられた視線の先に居るのは、カナエさんか。それとも他の誰かだろうか。
私は空を見上げる。
「空が、白んできましたねぇ……」
「もうすぐ日が昇るわね。姉さんを迎えに戻らないと」
「私たちを探そうにも今の時間帯は大声も出せないでしょうしね」
「不安がって狼狽えてるわ、きっと」
私たちは揃ってくすくすと笑い声を漏らした。カランカランと耳飾りの揺れる音が混じって、お互いに顔を見合わせる。
──私が見た彼女の瞳に、もう寂しげな色は浮かんでいなかった。
.
322人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ドジ猫(プロフ) - 絵宙(えそら)さん» 一応、炭治郎の髪ってことで炭治郎本人は数に入れてないです! わかりにくくてすみません!汗 (2020年3月30日 6時) (レス) id: a192f6ddb7 (このIDを非表示/違反報告)
絵宙(えそら) - ページ5の「込められた想い」では、弟の数は、茂、六太、竹雄、炭治郎(漢字が違うかもしれません)で、四人だと思います。細かくてすいません。これからも頑張ってください!楽しく読ませていただいてます! (2020年3月30日 3時) (レス) id: 63faa5bcfc (このIDを非表示/違反報告)
由亜(プロフ) - とっても面白いですね!一気に読んじゃいました。寝転びながら読んでたんで、シーツの一部分になみだのしみが・・・(泣きました)これからlet's続編で御座います!面白い小説を有難う御座いました (2020年2月24日 4時) (レス) id: d2128f7714 (このIDを非表示/違反報告)
タートル(プロフ) - 失礼致します!面白くて一気に読んでしまいました!私も鬼滅のお話を書いているので良かったらお越しください。 (2020年2月19日 20時) (レス) id: 77bb05bd52 (このIDを非表示/違反報告)
ドジ猫(プロフ) - なるは。さん» ありがとうございます!嬉しすぎて顔がにやける……!これからもよろしくお願いします!! (2020年2月16日 22時) (レス) id: a192f6ddb7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ドジ猫 | 作成日時:2019年12月19日 0時