やせ我慢 ページ15
その日は家に帰るなり
バタン、と部屋の中に閉じこもり
お気に入りの音楽を聞いたり
特にやりたくもない携帯のゲームをポチポチと
何も考えないようにしていた。
何かしてないと
ずっと嫌な事ばっかり想像しちゃって
居ても立ってもいられなくなってしまう。
だけど今日ばかりはヘッドホンの奥から聞こえる
やけにテンションの高いその楽曲はとても耳障りだ。
何をしてても気になってしまう。
千冬のあのソワソワといつもと違う態度や
目を逸らしたり、顔を背けたり
怒鳴るように大声を出したり…
かと思えば土曜日ね、なんて誘ってきたり…
そんな態度を取られたら気になるに決まってる。
「千冬のばーか…」
なんてポツリと呟いてみても
届くはずはない。
いい加減やる事もなくて
意味もなく携帯のカメラロールを開いてみる。
あの日友達から送られてきた写真は
いつの間にか勝手に保存していたんだろう。
千冬の大きな手と紫色の大きな紫陽花が
画面一面に映っている。
あの時
『いいじゃん、それ』
と褒めてくれた浴衣は
まだ名残り惜しくてタンスにしまえずに
部屋の隅でハンガーに掛かっていた。
あの日、勇気を出して
その手をぎゅっと握っていたら
何か変わってただろうか?
行かないで、って言えてたら
何か変わってただろうか…?
少女マンガみたいにうまくいくはずなんてない。
手を握って行かないで、と引き止めても
きっと千冬は困った顔をしただろう。
口ではああ言うけど、本当は優しいから
きっと困った顔をしながら
『ちょっとだけな』
って言って、引き止めるわたしを横に
たけみちゃんを探しに行くタイミングを探すと思う。
わたしにはそれが分かってたから
あの日何もできなかった。
千冬からほら、と手を差し出されていたら
戸惑うことなくぎゅっと掴んで離さなかった。
ても、そんなマンガみたいな出来事なんて
そうそう起こるはずなんてないんだ。
食欲もなんとなく湧かなくて
お夕飯できてるよー!と
リビングからわたしを呼ぶ声は
次第に部屋の前から聞こえるようになる。
コンコン、とノックされるドアの向こうで
ママが心配そうに、具合でも悪いの?
と声をかけてくれる。
『大丈夫!聞こえなかった!ごめんね』
と、空元気を装い
少しだけ食事を摂る事にした。
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作者名:ミリカ | 作成日時:2021年10月29日 19時